外国産業財産権侵害対策等支援事業
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はじめに

2.1  特許とは、出願を受けて政府(または複数の国家を代表する地域政府)により発行される文書であり、発明内容を記載したものである。これにより、通常は特許権者の承諾を得なければ特許発明を利用(製造・使用・販売・輸入)することができないという法的状況が生じる。「発明」とは、技術分野において、一定の課題を解決するための手段を意味する。発明には、製品に関するもの、または製法に関するものがある。特許による保護期間は限定的(一般に20 年間)である。

2.2  いくつかの国においては、発明を「実用新案」として登録し、保護することができる。実用新案の登録は、「特許性を有する」発明と比較して、特に進歩性について、いくぶん要件が緩和されており、さらに特許と比べて料金が低く、保護期間が短い。その他の点について見れば、実用新案に基づく権利は、特許とほぼ同様である。

2.3  特許はしばしば、「独占的権利」であると言われる。しかし実際には、ほとんどの国の法律において、特許発明の発明者や所有者は、何かを製造・使用または販売する権利を与えられるのではない。特許が付与されることにより生じる効果とは、特許の発行国内において、特許所有者以外の何人も、特許所有者の承諾なくして特許発明を利用することができないということである。よって、特許所有者は、制定法上の権利として自分の発明を実施することが認められるのではなく、他人が自分の発明を商業的に利用するのを妨げるための制定法上の権利を与えられるのである。この権利は、しばしば、他人による発明の製造・使用または販売を排除する権利ともいわれる。その国内において、所有者の承諾なく特許発明を利用する第三者に対し法的措置を講じる権利は、特許所有者の最も重要な権利である。なぜならば、この権利により、所有者は自身の知的労働の努力と尽力に対する見返りとして、多大な利益を得ることができ、発明をもたらした研究や実験にかかった費用を回収することが可能になるからである。

2.4  しかし、ここで忘れてはならないのは、国家は特許権を付与するだけであって、権利の行使が自動的になされるのではないこと、すなわち特許権が侵害された場合には、通常は民法の手続きに従い、特許所有者が自ら法的措置を講じなければならないということだ。したがって、特許権者は、自分自身の権利を守る「警察官」でなくてはならないのである。

2.5 簡単にいえば、特許とは、他人が発明を商業的に利用するのを一定期間排除する権利を国家が発明者に付与することにより、その発明を開示させ、他人もその発明によりもたらされる利益を享受できるようにするものである。従って、発明の開示は、いずれの国においても、特許付与手続きにおいて重要な交換条件となっている。

特許性の条件

2.6 発明が特許による保護を受けるには、いくつかの基準を満たしていなくてはならない。もっとも重要な基準は、その発明が、特許性を有する主題であること、産業上利用可能であること(有用性)、新規な発明であること(新規性)、十分な「進歩性」(非自明性)が証明されていること、そして特許出願における発明の開示が一定の基準を満たしていることである。

特許性を有する主題

2.7  発明が特許による保護を受けるためには、その発明が、特許性を有する主題の範囲内のものでなければならない。特許性を有する主題は、制定法により規定されており、通常は、特許性を有しない例外事項を定める方法で定義されている。一般原則は、特許による保護は、あらゆる技術分野の発明を対象とするというものである。

2.8 特許性を有する主題の範囲から除外される技術分野の例として、次のものが挙げられる。

  • 自然界にすでに存在する物や物質の発見、
  • 科学的理論または数学的方法、
  • 植物または動物の変種、あるいはそれらの変種を作り出すための原則的に生物学的な方法(ただし微生物学的な方法による場合を除く)、
  • 事業活動、純粋な精神活動、ゲームをするなどのための取り決め、規則または方法、
  • 人間または動物を対象とする治療方法、人間または動物を対象とする診断方法(ただし、それらの方法において使用される製品を除く)。

2.9 TRIPS協定(第27.2条および27.3条)では、加盟国が特許の保護対象から一定の種類の発明を除外することができると規定している(例として、その発明の商業利用が公序良俗に反する場合など)。

産業上利用可能性(有用性)

2.10 発明が特許性を有しているためには、その発明が純粋な理論上のものでなく、実用的な目的のために利用可能なものでなくてはならない。発明が製品や製品の一部となることを意図するものであれば、実際にその製品を製造することが可能でなくてはならない。発明が製法や製法の一部となることを意図するものであれば、その製法の実行が可能であるか、実地で「使用」(一般的な意味で)することが可能でなければならない。

2.11 「利用可能性」および「産業上利用可能性」という用語は、それぞれ、実際に生産・製造が可能であること、あるいは実行・実地使用が可能であるという意味を表現している。

2.12 同じ表現に含まれる「産業(上)」という用語も、特許法上、非常に特殊な意味を表している。一般用語では、「産業」活動といえば、一定の規模で行う技術的活動を意味するが、発明の「産業上」利用可能性という場合、一定の規模で技術的手段を用いて行う発明の利用(製造・使用)を意味する。

新規性

2.13 新規性は、実体審査において基本的な要件であり、特許性の要件として議論の余地がない条件である。しかし、ここで忘れてはならないのは、発明の新規性を証明することはできないということである。証明できるのは、「新規性がない」ことだけである。

2.14 発明は、従来技術から予測できないものであれば、新規な発明といえる。「従来技術」とは、一般に、その発明の特許出願日または優先権主張日よりも前に存在していたすべての知識(書面・口頭で開示されているかを問わない)を意味する。一定の時期において何を「従来技術」とするべきかについては、しばしば議論の対象とされている。

2.15 従来技術の判断は、特許による保護を与える国においてのみ知られる背景技術と比較して行うべきというのが1つの視点である。その場合、たとえその技術知識が外国で知られていたものであったとしても、発明日よりも前にその国に輸入されていない限り、外国からもたらされる技術知識は排除される。

2.16 もうひとつの視点は、印刷された出版物・刊行物と口頭による開示や先行使用のような他の開示との違いに基づく視点であり、それらの出版・刊行や開示が生じる場合に着目した視点である。

2.17 従来技術の一部とみなされるようになる発明の開示状況は、次の3通りに分類できる。

  • 書面で出版・刊行される文書またはその他の形態による出版物に発明が記載される場合、
  • 公の場での発言内容に発明が含まれる場合(口頭による開示という)、
  • 公の場で発明を使用するか、公衆の誰もが発明を使用できるように公の場に置くこと(「使用による開示」という)。

2.18 有形の形式による出版・刊行と認められるには、情報を記載するための物理的な媒体、広義には文書が存在し、その文書が出版・刊行されていること、すなわち何らかの方法で、たとえば販売の申込みを行う、あるいは公共の蔵書施設等に置くなどの方法により、公衆が利用可能な方法で供されていることが要件となる。出版・刊行物には、発行された特許や公開された特許出願、文書(手書き原稿、タイプ原稿、印刷物であるかを問わない)、写真や図面またはフィルムなどの絵、ならびに記録物(ディスクまたはテープによる記録物などを含み、話し言葉によるか、暗号化された言語により記録されたものであるかを問わない)などが含まれる。今日では、インターネットによる公開を考慮に入れる必要性も増してきている。

2.19 口頭による開示とは、その表現からもわかるように、その語句や開示形態が必ずしも記録されていない場合が含まれ、講演やラジオ放送などによる開示が含まれる。

2.20 使用による開示とは、展示、販売、実演、録画によらないテレビ放送、あるいは公の場における実際の使用など、本質的に公衆に向けて視覚的に開示されることをいう。

2.21 クレームされている発明の新規性は、その発明の主題がある文書に明示的に記載されている場合に限り、否定される。よって、審査中の出願クレームに記載される発明の主題は、その構成要素ごとに個別の刊行物の内容と比較検討がなされる。その刊行物のみですべてのクレームの特徴を含んでいる場合に限り、すなわち、その刊行物のみでクレームの主題が予測可能である場合のみ、新規性の欠如が認められる。

2.22 しかし一方で、当業者が刊行物に「教示」されている事項を実行することにより、クレーム記載されている結果に不可避的に行き着くという意味において、新規性の欠如が黙示的に認められる場合もある。一般に、黙示による新規性の欠如を特許庁が認めるのは、先行して存在する「教示」がもたらす実際の効果に一切の合理的な疑義が認められない場合に限定される。

2.23 新規性について考える場合、別々の従来技術を組み合わせることは認められないという点に留意しなければならない。

進歩性(非自明性)

2.24 進歩性(「非自明性」ともいう)の要件に関連し、「当業者(その技術分野において通常の技量を有する者)が予測可能」な発明か否かという問いは、実体審査においてもっとも判断が難しい事項といえる。

2.25 このような要件が特許法制に定められたのは、従来技術の一部としてすでに知られていた発明、あるいは従来技術を実行した明白な結果として当業者が導き出すことができる発明に対し、特許による保護を与えてはならないとの前提に基づいている。

2.26 「通常の技量」という表現は、「最高の」技量を有する専門家を排除することを意図している。すなわち、「当業者」を、その国の当該技術分野において平均的に到達できる水準の技量を有する者に限定することを意図している。

2.27 新規性と進歩性とは、まったく異なる基準である点に注意しなければならない。新規性は、発明と従来技術との間に何らかの違いがあれば認められる。そして、「この発明には進歩性があるか?」という問いは、発明に新規性があって初めて生じるものである。「進歩性」という表現は、クレームされている発明が新規である、すなわち最新の技術に含まれる技術と異なっているというだけでは十分でなく、その差異に次の2つの特徴が備わっていなければならないという概念を伝えている。第一の特徴は、「進歩的」であること、すなわち、創造的なアイデアの成果でなくてはならないこと、そしてその進歩が確実に一歩先を行くものでなくてはならないこと、つまり顕著な進歩でなくてはならないという点である。最新の技術とクレームされた発明の間には、明確に区別できる差異が存在しなければならないのである。いくつかの法域において、従来技術に対して「進歩的」または「発展的」という概念が定められているのは、このためである。

2.28 第二の特徴は、この進歩または発展が重大なものであり、かつ、発明の本質であることが求められているという点である。

2.29 進歩性の根拠とされる差異の性質を評価するためには、従来技術全体を考慮する必要がある。新規性の評価とは明確に異なり、審査対象となっているクレームの主題を、各公開物その他の開示物ごとに個別に比較するのではなく、当業者にとってそれらの各組合せが自明である場合には、それらの組合せと比較するのである。その組合せは広範囲にわたる場合もあれば、たとえば、特定の駆動装置を含む洗濯機を特定の種類のホースと組み合わせるなど、クレームによって、別々に知られている各主題の組合せ1組が決められる場合もある。進歩性が否定される場合には、組み合わせのみならず、その組合せの構成要素の選択が自明でなければならない。従来技術と比較して自明性の判断を行う対象は、見いだされた差異全体であって、各構成要素の間に技術的な関連がない場合を除き、新しい各構成要素を個別に判断するものではない。

2.30 ほとんどの場合において、次の3つの観点から進歩性の評価を行うことが有用である。

  • 解決すべき課題
  • その課題解決の手段
  • 背景技術と比較した発明の効果

2.31 課題がよく知られているか、明白である場合、審査は、クレームされている解決法の独創性にかかってくる。解決法の中に何の進歩性も見いだすことができない場合、残る問題は、その結果が自明なものかどうか、あるいは、その発明の意外性が性質によるものか、程度によるものかということになる。当業者がその課題を提示し、クレームされている方法で解決し、その結果を予測できたというのであれば、進歩性を欠いているということになる。

発明の開示

2.32 さらに追加される特許性の要件は、発明の内容が十分に出願において開示されているかという点である。

2.33 特許出願は、当業者またはその技術分野で通常の技量を有する者が発明を実施できる程度に十分に発明内容を開示していなければならない。

2.34 明細書には、クレームされている発明の実施態様を少なくとも1つ記載していなくてはならない。この要件は、必要であれば事例を挙げ、あれば図面を参照することで対応する。いくつかの国では、出願人の知り得る限りにおいて最良の実施態様を明細書に開示することが要件とされている。

2.35 実体審査の有無にかかわらず、いくつかの法域においては、特許付与の前後いずれかに異議申立を認める制度を有している。異議申立制度は、特許付与に対し、第三者が異議を表明するための制度である。

2.36 異議申立を提出できるようにするには、公衆が特許出願の内容を知らされていなくてはならない。これは、特許庁が特許公報で次の内容を公開することによって行う。
特許出願が公衆の閲覧に付されたこと、
一定の期間内に異議申立がない場合には特許庁がその特許出願を付与する予定であること、またはその特許出願に対し特許が付与されたこと。

2.37 異議申立を提出するための根拠については、それぞれの関連法制で定めている。一般に、いかなる実体要件についても、それを順守していないことを根拠として異議申立を提出することが可能である。しかし、いくつかの国では、異議申立の対象を一定の実体要件に限定している。主に、これらの根拠となる実体要件とは、新規性、進歩性、または産業利用可能性の欠如、発明の不十分な開示、あるいは、特許出願の補正内容が出願当初の開示範囲を超えていることなどである。さらに、その特許出願者には特許権がないという根拠で異議申立が可能な法域もある。

特許出願の書類作成と申請

発明の特定

2.38 特許出願の書類作成における最初の課題は、発明を特定することである。発明の特定には、次の事項が含まれる。
特定の技術的問題をそれぞれの特徴を組み合わせ解決するために必要な全ての特徴をまとめること、およびこの組合せが、自己の判断に基づき、特許性、特に進歩性の要件を満たしているかどうかを判断するために検討すること。

2.39 この発明を特定する過程の中で、発明の本質に対する完全な理解が得られ、その理解が発明の内容やクレームの記載を行う上で重要な役割を果たす。

2.40 発明には、2つ以上の新しい特徴が含まれる場合が多い。この場合、決定的な特徴を特定し、それらがどのように課題の解決に貢献するのかを説明できるようにしなければならない。これには2つの重要な理由がある。第一の理由は、クレーム範囲は広ければ広いほどよいということである。最も範囲が広いクレームとは、範囲に制限を加える特徴の数を最小限に抑えたクレームである。第二の理由は、決定的な特徴とその効果を特定したら、次は、その効果を得る別の方法はないか、つまり、その具体的な特徴を別のものと置き換えても、最終的に同じ結果を得ることは可能かを検討することが必要ということである。このことは、それらの代替案をクレームの対象に含めるための十分に広範なクレームを作成する場合のみならず、その広範なクレームを裏付けるために代替案の詳細な記載が求められる発明の詳細な説明の作成時にも重要な点である。

特許出願書類作成の実務

2.41 出願書類作成の実務は、それぞれの国によって異なる。しかし、各国に共通して、特許出願書類の作成には、順守すべき3つの基本的な要件がある。

2.42 第一に、1出願に対し、1発明のみ、あるいは相互に関連して1つの総合的な発明概念を形成する1発明グループのみを記載するという要件がある。この要件は、「発明の単一性」といい、特にクレーム作成時に重要である。

2.43 第二に、明細書は、当業者が発明を評価し、実施できる程度に明確かつ十分に発明を開示していることが求められる。この要件は、明細書の主たる機能の1つが第三者に新しい技術情報を提供することにあることから、根本的な重要性を持つ。この要件において注意すべき箇所は、「当業者」という表現である。この表現があることにより、出願書類の読者を、背景知識を有する読者と想定できるため、発明の基本的事項を逐一記載する必要がなくなり、発明の記載を簡潔にすることが可能になる。

2.44 第三に、出願が審査段階にまで進むためには、保護範囲を定めるクレームが記載されていなければならない。クレームは、明確かつ簡潔でなくてはならず、明細書によって十分に裏付けされていなければならない。この3番目の基本要件は、特許による保護範囲の解釈の基礎となるため、非常に重要である。第三者は、そのクレームの内容から、何をして良いのか、何をしたらいけないのかを知ることができる。クレームは、発明の記載内容よりも著しく広い範囲を対象としてはならず、その記載内容と異なっていてはならない。

2.45 明細書における冒頭部分には、一般に2つの要素が記載される。発明の名称と、発明の属する技術分野についての簡単な説明である。通常、この説明は、短い導入部分として記載され、次の書き出しで始まる。「本発明は、・・・に関するものである。」

2.46 2番目の記載箇所には、発明の背景が記載される。この箇所を作成するにあたり、特許代理人は通常、発明が解決しようとする既に存在している問題または課題を記載する。それらの問題や課題に対する従来の解決法を、発明による解決法と従来の解決法との違いが明確になる方法で記載するのが好ましい。この箇所には、発明の目的、すなわち、発明が達成しようとする目標も記載される。明細書のこの2番目の箇所は、発明内容の理解を深め、従来技術に対する視点を与えてくれるという意味において、重要である。

2.47 明細書の3番目の箇所には、発明内容が容易に理解できるような文言により、発明の簡単な説明が記載される。特許代理人は通常、主たるクレームで使用する用語と対応する一般用語を用いて発明内容を記載する。この技法により、特許代理人は、記載される発明の内容とクレームに定義される発明との違いに起因する紛争を回避することができるのである。一般用語で書かれたこの発明の記載の後には、通常、発明のそれぞれに異なる好ましい特徴が列挙される。これらのパラグラフは、通常、範囲の広い主クレームに続いて記載される従属クレームの根拠となる。

2.48 明細書の4番目の箇所には、一般に2つの要素を見いだすことができる。図面がある場合には図面の簡単な説明、そして発明の1以上の実施形態の詳細な記載である。たとえば、機械などの目的物に関連する発明であれば、その目的物の平面図、立面図または断面図などを描いた図面を用いることができる。図面に描写されるそれぞれの要素には、番号を割り当て、実施例の記載においてその番号を用いる。

2.49 発明が電子回路を対象とするものである場合、回路中のさまざまな要素や構成要素の接続部を効果的に示すために図面を用いることができる。ここでも、各要素や構成要素に番号を割り当て、実施例の記載において参照しやすくなるようにする。通常、図面には文書を含めてはならないとされている。しかし例外として、図面を描写する線にかからない範囲で、図面を描写する語句を1つずつ使用することができる。よって、電子回路を描写する図面においては、たとえば、ボックス図に名前をつけ、これを用いて標準的な構成要素を図面中に記載することができる。同様に、製法に関する特許の場合、ブロック図や回路図、フローチャート図を用い、それらの図に含まれる個々のブロックやボックスにそれぞれ名前をつけることもできる。

2.50 化学分野の発明である場合、1以上の組成物の化学式を図面とすることもできる。あるいは、冶金を対象とする発明の場合であれば、構成要素の相平衡状態図といった概略図などを図面とすることもできる。

2.51 実施形態の記載においては、その発明の実際の動作について簡単な説明を記載することが多い。たとえば、その装置が機械や電子回路であったなら、その機械や電子回路がどのように動作するかを記載すれば、発明の理解を深めるために非常に役に立つ。

2.52 クレームは、特許の目的である保護の範囲を決定するものであり、特許権により付与される排他権の範囲を明確に定義するものであるため、認可された特許の中心あるいは核というべきものである。よって、特許代理人にとって、クレームの文言を作成する作業は、明細書の作成において最も重要な作業といえる。クレームは、明細書により開示される技術的特徴という側面から発明を定義し、商業的な利点については一切言及しない。

2.53 特許代理人が作成する一連のクレームは、一般に、最初に広い主クレーム、その後に複数の狭いクレームが続く形式である。広いクレームは、出願書類の作成時点で知られている従来技術を回避できるように作成される。そして、特許代理人がこの後に続くクレームの範囲を狭くするように作成するのは、そうすることによって、より関連性の強い従来技術に基づき特許庁が指摘する予測可能性、さらに異議申立手続きや無効申立手続きにおける第三者による予測可能性の主張にも揺るがない強いクレームとなることを願ってのことである。忘れてならないのは、最初の広いな主クレームに続く各クレームを強固にするためには、追加的な発明の要素がなければならないという点である。

2.54 広い主クレームに続く狭いクレームは、通常、1つまたは複数の先行クレームを言及しているため、従属クレームと呼ばれる。各従属クレームに記載される特徴は、必ず明細書中にその根拠が記載されていなければならない。明細書には、通常、それらが発明のより良い技術態様を生み出すための好ましい特徴である旨が記載されている。

2.55 特許文書における最後の要素は、要約である。要約は、発明の記載とクレームを短くまとめたものである。要約の目的は、第三者が発明の本質的な内容について即時に情報を得ることができるようにすることである。特許の保護範囲を解釈するために要約を使用しないという点に留意しなければならない。

2.56 要約作成の指針となる原則は、特定の技術調査を行うという目的のために、効率的に検索を行うためのツールとなるように作成するということである。したがって、要約は、開示内容にもよるが可能な限り簡潔にまとめなければならない。一般に、要約は50~150単語でまとめる。

特許出願の審査

方式、出願日および優先権主張日に関する審査

2.57 ここからは、特許庁で行われる手続きに従って説明を進める。特許庁で行われる手続きについてコメントすべき事項は、次の3つの段階に分けられる。

  • 方式審査
  • 調査
  • 実体審査

2.58 上記各段階において、通常の手続きは、主に書面により、特許庁の審査官と出願人との間でなされるやり取りで進められる。特許代理人は、特許庁から通信書簡を受領し、とるべき対応について出願人に助言を行い、出願人の指示を受けて特許庁の通信書簡に対する回答を提出するという意味で、両者の橋渡し役をしているといえる。

2.59 方式審査に入る前に、その出願が、出願日を確定するために必要なすべての要件を具備しているかについて、チェックを受ける。出願日が確定しない限り、その出願がなされていないものとして扱われ、その先の手続きに進むことができないので、欠くことのできない確認事項である。出願日は、特許取得の流れ全体においても重要な意味を有する。なぜなら、特許期間の算定や、場合によってはパリ条約に基づく別の国への出願における優先権主張日の確定など、様々な行為の起算日となるからである。出願日(または優先権主張日)はまた、新規性や進歩性の評価にも関連する。

2.60 国内出願、地域出願あるいは国際出願を提出してから12カ月以内であれば、これに基づき優先権を主張することができる。優先権主張の効果とは、別な国における国内出願日をその優先権主張日と置き換えることができることである。これは、新規性や進歩性を判断するための関連従来技術を検討するにあたり、特に重要な点といえる。

2.61 優先権は、パリ条約またはTRIPS協定の加盟国すべてにおいて利用可能な権利である。しかし、各国の国内法によっては、パリ条約非加盟国に対しては二国間の相互協定に基づき優先権が認められるという場合もある点に留意しなければならない。

2.62 優先権は、1または複数の国で特許による保護を求める出願人にとって、多大な実務的恩恵をもたらしてくれる。出願人は、どの国で保護を求めるかを決断するまでに12カ月間の猶予を与えられることになるので、自国と外国のすべての出願を同時に提出する必要がない。出願人は、この期間を利用して、自分に利益をもたらす様々な国で保護を受けるために取るべき措置を、細心の注意をもって計画的に講じることができるのである。

2.63 方式審査は通常、出願日が確定され次第、ただちに行われる。基本的には、方式審査では次の事項を審査する。すなわち、特許代理人による代理(該当する場合のみ)、申請の内容、発明者に関する記載、明細書、クレームおよび図面の様式的な要件、ならびに要約の具備である。出願人は、方式審査で指摘された不備を補正する機会を与えられる。指定期間内にその不備が補正されない場合、特許庁は、この出願を拒絶する。

調査

2.64 各国の関連法で定める審査手続きにより、実体審査とは別にあらかじめ、あるいは実体審査と同時に、特許調査が行われる。いずれの場合でも、調査の目的は、発明が関連する特定の分野における従来技術を決定することにある。この調査を行うにあたり、特許庁は、出願に記載されている解決手段と同一であるか、類似している解決手段を記載している文献が存在するかどうか、これを確かめるために特許庁の蓄積文書データベースを調べる。

2.65 実体審査とは別に調査が行われる場合、次の事項を記載した調査報告書が出願人に送付される。
調査により発見された、本発明と同一または極めて類似する主題を開示している文書のリスト、および上記の文書と比較対照すべき本出願のクレーム。

2.66 上記の調査報告書には、調査範囲を示す基準が示されている場合がある。つまり、調査がなされた文書の種類、対象期間、および調査を行った特定の技術分野などである。

2.67 調査自体は、主に調査目的のために特定の技術分野ごとに分類された特許文献の蓄積データを調査する文献調査である。これらの特許文献調査に加え、技術ジャーナルその他のいわゆる非特許文献に記載される論文等の調査で補っている。これらの蓄積文献データを総称して、一般に「サーチファイル」という。

2.68 特許庁は、サーチファイル中の文献に限り調査を行うことができる。特許庁はさらに、1または複数の商業データベースやインターネットを使用して、オンラインによるコンピュータ検索を行うことができる。特許庁による調査は、出版・刊行によらない開示を調査対象とせず、特に、一般の使用によって開示がなされたか否かの判断を行わない。これら一般の使用による開示がある場合には、実体審査の過程において第三者がその使用につき特許庁に申し立てた場合のみ、検討される。

2.69 調査自体は、直接的に関連する技術分野すべてを対象として行われ、その次に類似分野にまで調査対象を拡大する場合もあるが、調査対象を拡大する必要性の判断は、直接的に関連する技術分野の調査結果を考慮した上で、審査官が各個別ケースごとに判断しなければならない。調査については、完全を期すことが理想ではあるが、分類方法や情報検索システムの取り除くことのできない不完全性といった要因により、必ずしも理想通りに完全な調査を行うことはできない。さらに、調査費用を合理的な範囲内に収めるためには、完全な調査という理想を経済的に正当化することはできない。

実体審査

2.70 実体審査手続きの目的は、出願が特許性に関する一定の条件を満たしていることを確認することである。要するに、実体審査手続きの目的は、次の場合における特許付与を防止することであるといえる。
法律により特に特許の保護対象から除外される発明である場合、
発明に新規性がない、進歩性がない、かつ/または産業利用可能性がない場合、または提出された出願書類中に発明内容が明確かつ十分に開示されていない場合。

2.71 方式審査の場合と同様に、出願人は、実体審査の過程で指摘される拒絶理由を解消する機会を与えられる。指定された期間中に、出願人が拒絶理由を解消することができない場合、特許庁は、特許の付与を拒絶する。

2.72 出願書類を補正する機会を与えることは、出願人と公衆の双方にとって利益がある。不備を解消することにより、より良い特許の付与が可能になるだけでなく、開示内容を明確にするための補正を行うことにより、発明の記載が改善され、発明の保護範囲がより正確に定義されるからである。

2.73 すべての補正が認められるわけではない。一般原則として、補正を行う場合には、出願当初の開示に含まれない事項を含めてはならない。

2.74 いずれの国においても、特許法の目的は発明の保護であることから、特許庁は、審査の結果、付与の可能性が明確に排除される場合に限り、特許の付与を拒絶することができるという点に留意しなければならない。一般に、疑義が生じた場合には、出願人に有利な方法で解決される。なぜなら、特許の有効性等に関する最終的な判断は、裁判所を通じて行うことが可能だからである。

特許付与および公開

2.75 審査の結果、出願人の申請事項が認められた場合、すなわち、方式・実体のすべての要件が備わっていると認められ、異議申立が提出されず、あるいは異議申立の結果、申立人の主張が認められなかった場合、特許庁は、この出願につき特許を付与する。特許の付与により、特許庁側でいくつか行うべき事項が生じる。

2.76 第一に、特許が付与された場合、特許の詳細が特許登録原簿に記録される。特許登録原簿には、一般に、特許番号、出願人/特許権者の名前と住所、発明者の氏名、出願当初の出願番号、出願日、優先権主張に関する詳細事項、そして発明の名称などの書誌事項が記録される。技術情報は一切記録されない。

2.77 さらに、特許を有効に維持するために特許維持年金の支払いが求められる国の場合、特許登録原簿には、それらの維持年金の払込日が記録され、さらに、記録されているライセンスや譲渡に関する詳細も記載される場合がある。

2.78 このように、特許登録原簿をみれば、特許の実際の法的状況が明らかであり、第三者、特に特許権者の競合業者にとって有益な情報源である。国によっては、ある特許に関して記録されている状況の正確性を証明する証拠として、特許登録原簿の抄本を裁判所が受け付ける。

2.79 第二に、特許庁は、認可された特許についてその書誌事項とともに、特許公報に記載して発行する。特許公報には、要約または主クレームが収録される場合もあり、図面がある場合には、代表図面が収録されることもある。

2.80 第三に、出願人に特許証が発行される。特許証は、その特許に対する出願人の所有権を認める法律文書である。認可された特許も同時に発行される。

2.81 最後に、特許庁は、特許文献を印刷物として発行する。特許庁は、特許閲覧室等を利用して、技術情報源として特許文献のコピーを一般の閲覧に供し、第三者にも有料で閲覧を認める。多くの国の特許庁では、優先権主張日または出願日の18カ月後に、出願を公開している。

2.82 すでに述べたように、特許を有効に維持するためには、一般に、特許期間中の毎年、特許庁に対し、定められた特許更新料または特許維持料の支払いが求められる。国によって、たとえば繰延審査制度がある国においては、特許付与前から特許維持料の支払いが求められる場合もある。また、いくつかの国では、特許維持料の支払いが毎年でなく、たとえば、3年から5年ごとに求められるという場合もある。特許維持料の支払いが求められない国は少数派である。

侵害

特許権者の排他的権利

2.83 一般に、特許権者には、その特許発明の使用について、許可または不許可の決定を行う権利が与えられ、コモンローに従い行使することができる。特許権者は、必要な特許更新料または特許維持年金を支払う限りにおいて、特許有効期間にわたってその権利を保持する。

2.84 特許権者に認められる自己の特許発明に対する法的な権利には、通常、様々な制限が課されている。

2.85 第一に、独占的権利の範囲を定義するクレームは、特許付与前に発見されなかった不備につき、裁判所により補正を命じられたり、無効とされたりする場合がある。

2.86 第二に、発明の内容が従来特許の改良または開発である場合、特許権者は、その従来特許の権利者からライセンスを取得し、ロイヤルティ料を支払う必要がある場合がある。

2.87 第三に、特許権者の権利は、通常、その特許の有効性に関する問題とは全く別の理由から、特許法の定めにより制限を受ける。たとえば、ほとんどの国の特許制度において、特許権者がその独占的権利を維持するためには、特許発明を自ら実施するか、第三者に実施許諾権を供与することにより、特許発明を実施していることが求められる。特許国において、特許発明の不実施、または実施が不十分であることが証明された場合、強制実施権が第三者に認められる場合がある。

2.88 最後に、特許権者が特許発明を使用する権利に課される4番目の法的制限は、公共の利益のために、契約で定める条件や裁判所が命じる条件に従い、政府または政府が認める第三者が特許発明を使用するというケースがよくある点である。

2.89 上記の制限事項を除き、特許付与により、特許権者は、他人によるその特許発明の実施を排除することが可能になる。特許権者に与えられる権利は、排他的権利であるといわれる。その理由は、特許権により、第三者による特許発明の実施を排除できること、そして、第三者がその実施権を(たとえばライセンスにより)認められない限り、特許発明の実施を唯一認められるのは、特許権者だけだということである。特許権者の排他的権利には、実務上、2つの主な利用方法がある。つまり、侵害に対する保護あるいは防御のためにこれを用いること、そして、権利の一部または全部を譲渡したり、実施権を許諾するという使い方である。特許発明の実施権許諾については、後段で述べることにする。

2.90 特許権者が有する排他的権利の侵害には、第三者による特許発明の不正な実施が含まれる。発明の創作、その発明を産業利用するための開発には、通常、出願人や将来の特許発明権利者による多額の出費がともなう。したがって、特許権者は、特許発明の実施、特に発明を組み込んだ製品の販売により、これらの費用を回収したいと願うのである。

権利行使

2.91 特許権行使のイニシャチブを握っているのは、特許権者のみである。つまり、侵害を発見し、侵害者に警告を発するという行為は、特許権者の責任において行わなければならない。多くの法域では、特許権者が提訴の警告を発する場合、その警告の根拠が不十分であることが明白であるときは、損害賠償額などを含め、重大な損害を被る可能性がないのに警告を発してはならないという厳格な規定が適用される。法にこうした規定が定められている主な目的は、特許権者が、侵害の疑いがある主たる侵害者を追求することなく、その顧客に対し警告を発することを防止するためである。実際には、その侵害対象の特許の存在を指摘する穏便な書簡を送付することにより、侵害を継続するなら訴訟を辞さないという特許権者の意思を示すことができる。こうした書簡は、侵害を抑止するのに極めて効果的であることが証明されている。

2.92 侵害者が侵害行為を止めようとしない場合、特許権者は、実施権の許諾を検討することができる。多くの場合、紛争初期の段階でライセンス交渉により解決することが多い。この場合、ライセンス条件には、両当事者の交渉力が反映されることになる。しかし、ライセンシー側が受入可能な条件では特許権者が実施許諾をしたくないという場合、特許権者は、裁判所に侵害請求の訴えを提起し、侵害行為の差し止めによる救済を求めることができる。これに対し争う意思のある侵害者側が取る法的な対抗手段は、通常、特許無効の申立を行うことである。

2.93 ほとんどの特許侵害訴訟は、法廷での裁判に行き着くことなく、交渉により和解する。裁判所での正式な訴訟で争われるケースでも、審理前手続きで終わる場合がほとんどで、法廷審問が行われる前に和解が成立する。非公式の仲裁人が和解に一役買っているという場合もある。こうした和解手続きは、特に内容が複雑なケースの場合、何年もかかることが珍しくない。しかし多くの場合、訴訟にかかる費用を抑えることができる。また、これらの和解では、常に、実施権の許諾と損害賠償金の支払いが伴っている。

侵害の種類

2.94 特許権の侵害には、いくつかの種類がある。第一は、第三者が故意に特許を侵害し、侵害を回避するための試みも行っていない場合である。この種の侵害には、特許の完全な模倣もあれば、特許にわずかな変更や修正を加えた侵害も含まれる。この種の侵害は、第三者が悪質なために生じる場合もあれば、第三者が特許代理人から問題の特許が、あるいはその特許のクレームの一部が無効であるとの助言を受けて侵害行為をするという場合もある。

2.95 この種の侵害の場合、一般に、侵害が存在するか否かについての争いはない。特許発明の特徴すべてを模倣しているのであれば、侵害が存在することに間違いはなく、唯一争点となるのは、特許クレームが有効かどうかという点である。

2.96 第二は、故意の侵害行為であって、すぐに侵害とわからないようにするための策が講じられているという場合である。この種の侵害は、発明を組み込んだ製品の販売や、発行された特許文献、あるいはその他の出版・刊行を通じて発明が開示されたことにより、第三者がアイデアを思いついた場合に多い。出版・刊行物には通常、解決すべき課題とその手段について概要が記載されている。第三者は、同じ結果を得るための代替案を考えようと試行錯誤する。この第三者は、真剣に特許を回避する努力をしているものの、基本的なアイデアの部分で特許発明を利用しているため、努力の成果は必ずしも特許クレームの範囲外となるとは限らない。この種の侵害は、特許権者がもっとも多く遭遇する類の侵害であろうと思われ、ほとんどの訴訟はこうした侵害が原因となっている。

2.97 最後は、たまたま侵害が生じてしまったというケースである。特許権者は、自分のアイデアを実施した製品や製法を目にすると、当然、それが模倣だと考えるだろう。しかし、必ずしもそうではない。なぜなら、特定の課題について、それを解決するための研究が多くの人たちによって、同時進行で行われているからである。たとえば、大企業が抱えるそれぞれの研究部門では、同様の課題について研究が行われている。同様に、いくつもの会社が、特定の課題を解決するため、あるいは一定の結果を生み出すための請負業務について入札に参加し、特許発明に含まれているアイデアと似たアイデアを思いつくこともあるかもしれない。このように、特許権者が自分の発明を模倣されたと思った場合でも、第三者が実際に、別の方法によって、同一ではないにしても類似している解決手段にたどり着いたというケースもある。

侵害成立の要件

2.98 侵害が成立するためには、特許権者は、次の要件をすべて証明しなければならない。

  • 禁止行為を行っていること、
  • 禁止行為が特許出願の公開後、または公開がなかった場合には特許の発行後に行われていること、
  • 禁止行為が特許付与国で行われていること、
  • 禁止行為が特許クレームの対象範囲内にある製品または製法に関連していること。

禁止行為

2.99 侵害の成立にとって最も重要な要件である禁止行為とは、特許製品の製造、使用、販売もしくは輸入または特許製法の使用、あるいは特許製法を用いて直接に得られる製品を製法、使用、販売または輸入する行為をいう。

2.100 製品の製造(making)とは、特許にクレームされ、記載されている製品を実際に実施することをいう。特に商業ベースで生産する製品の場合には、製造(manufacturing)ともいう。特許製品の侵害においては、製造方法や製造数量は関係ない。しかし、ほとんどの国の法において、特許製品を製造する排他的権利の侵害には主に次の3つの例外規定が定められている。

  • 特許製品の製造が科学的な研究や実験のためにのみ行われる場合、
  • 製品に組み込まれている発明に対する特許の出願日前に、第三者が製品の製造を開始していた場合、
  • 強制実施権に基づき、または政府が公共の利益のために認めた許可に基づき特許製品が製造される場合。

2.101 特許製法については、特許製法を用いて直接に得られる製品の製造のみが禁止行為とされる。ここで「直接に」とは、「直ちに」または「追加的な変換または変更を要しない」という意味である。

2.102 特許製法を用いて直接に得られる製品に関する侵害を成立させる上で困難な点のひとつは、その製品を製造するのに特許製法が用いられたことを証明することである。いくつかの国では、次のような推定を法に規定することにより、製法特許に関する立証責任を転換させることでこの問題を部分的に解決している。「特許製法の使用により直接に得られる製品が、その特許の出願日または優先権主張日時点で新製品であった場合、第三者が製造した同一の製品は、同じ製法により得られたものと推定する。」また、国によっては、その製法で得られる製品であれば、新製品に限定しないことを法に規定することにより、さらに上記の困難を排除している。

2.103 特許製品の使用については、その使用が繰り返し行われたり、継続的に行われることは要件とされていない。規定によれば、特許製品の使用者が誰であっても、またその使用目的にかかわらず、使用自体が禁止行為であると定めている。特許製品の使用は、たとえ実際に使用される製品が特許権者の製造によるものであっても、または特許権者の許諾を得て製造された場合であっても、特許権者の許諾なしに製造された場合であっても、禁止行為とされる。

特許クレームの対象範囲

2.104 ほとんどの国の法において、特許製品を使用するための排他的権利の侵害には、次の5つの例外事項が定められている。

  • 特許製品の使用が科学的な研究や実験のためにのみ行われる場合、
  • 使用される特許製品が、特許発明の所有者により、またはその許諾を得た上でその国の市場に出されたものである場合、
  • 特許製品の使用が、その国で輸送中の乗物の中で行われる場合、
  • 特許製品を継続的に製造する特別の権利を認められた第三者が特許製品を使用する場合、および
  • 強制実施権に基づき、または政府が公共の利益のために認めた許可に基づき特許製品が製造される場合。

2.105 特許製品の販売は、たとえ実際に販売される製品が特許権者の製造によるものであっても、あるいは特許権者による許諾の有無にかかわらず、禁止行為とされる。特許の記載事項や特許クレームに対応する製品は、特許権者の許諾なしに製造された場合であっても、特許製品とみなされる。

2.106 製品の輸入とは、単に、特許製品であるか、特許製品を組み込んでいる物品を、特許による保護が認められている国に持ち込むことをいう。よって、輸入とは、国境を越えてその国の領土内に製品を移動させるという物理的な行為である。いずれの国から輸入された製品であるかは問わない。さらに、輸入の目的が使用なのか販売なのか、あるいは無料で頒布することなのかは無関係である。また、輸入された製品が、製造国または輸出国において特許で保護されていたかも無関係である。

2.107 特許製品の使用、販売および輸入にかかる原則は、これらの行為の定義が適用可能な限りにおいて、特許製法により直接に得られる製品の使用、販売および輸入に対しても準用される。

出願公開後または特許発行後

2.108 侵害成立のための第二の要件、すなわち禁止行為が発明の公開(特許出願の公開または付与された特許の公開)後に行われているという要件については、特にコメントすべき点はない。発明の詳細が一般の閲覧に供されていない段階にもかかわらず、第三者に侵害の訴えを起こすことができるとしたら、当然の正義に反することになろう。

特許が付与された国で

2.109 侵害成立のための第三の要件についても、多くを語る必要はないだろう。一般に、特許権は、認可された国以外にまで適用されることはない。一国の特許法が、他国に影響を及ぼすことはない。しかし例外的に、ごく少数の国、特に英国の特許法に依存している国々においては、英国特許の所有者は、一般に特許付与日から3年以内に申請すれば、それらの国々にその特許を登録し、権利保護を拡大することが可能である。

特許クレームの範囲内

2.110 侵害成立のための第四の要件は、通常、どの特許訴訟においても決定的な争点とされる事項である。特許による保護の範囲は、すべての国において、クレームによって決定されている。クレームの意味については、究極的には裁判所により解釈される。一方、裁判所がクレーム解釈を行う場合には、国内法の他、ある程度、規則や規制を判断の根拠としている。よって、クレームの意味は、その解釈を行う司法の手に委ねられているといえる。

2.111 裁判所、特にコモン・ロー制度下における裁判所は、クレームの文言がどのような構造を定義しているのか、あるいは侵害が主張されている構造が、クレームの文言で定義される構造と対応しているかについて、判断を下そうと試みる。

2.112 特定の構造が特許発明における特定のクレームを侵害しているかという問いに対し、その回答を見つけるために、クレームが各個別の構成要素に分解され、主張されている侵害の構成要素と比較され、それらが適合するかどうかが調べられる。実際に、クレームの文言をそれほど大きく解釈することなく、主張されている侵害と対応させることができる場合には、侵害の可能性が高いとみなされる。一方、主張されている侵害に一切含まれない要素が特許クレームに含まれる場合には、侵害がない可能性もある。

2.113 クレームにおける個別の構成要素と、主張されている侵害の構成要素とを比較した場合、次の問に答えてみる必要がある。

  • 主張されている侵害の中に、クレームのすべての構成要素が含まれているか?
  • すべての構成要素が同じ形態をしているか?
  • すべての構成要素が同じ機能を果たしているか?
  • それらの構成要素と他の構成要素との関係は同じか?

2.114 上記4つの質問に対する回答が「イエス」であれば、侵害が成立する。ただし、問題のクレームが有効であることが前提である。侵害製品または侵害製法は、クレームに定義された発明の各構成要素1つ1つ、すべてを含んでいなければならない。

2.115 侵害の成立はもちろん、常に明々白々というわけではない。たとえば、形態を変更したとしても、生み出される結果が同じであれば、侵害を回避することはできない。同じく、製法において手順を変更したとしても、得られる結果が同じであれば、侵害を回避することはできない。さらに、主張されている侵害に追加要素が含まれていたとしても、特許クレームの構成要素すべてが含まれていれば、侵害を回避することはできない。

2.116 特許クレームの解釈で最も難しい分野の1つにあげられるのは、主張される侵害において、代替要素や対応要素が含まれていたかどうかについての判断である。多くの国で訴訟実務の中でよく知られる法理で、いわゆる「均等論」とも呼ばれる分野である。簡単にいえば、均等論とは、侵害者が基本的に特許発明を利用しながら、特許クレームに含まれる構成要素を、発明の構成要素を一部変更し技術上・機能上これと対応する要素と置き換えているだけの場合には、侵害者はその行為を継続することができないというものである。この場合、侵害者が使用している一部変更点が発明の改良その他であるかを問わない。均等論の議論は、侵害者が使用する一部変更点が、クレームに含まれる構成要素と実質的に同じ方法で機能し、実質的に同じ結果を達成するというケースに限定される。

特許権者に認められる救済

2.117 侵害が成立した場合に特許権者に認められる救済については、通常、国内の特許法に規定されており、一般に、民事上の制裁と、刑事上の制裁の2通りに分けることができる。

2.118 広義でいえば、いかなる侵害事件においても、民事上の制裁を行うことは可能であるが、刑事上の制裁が行われるのは、侵害が故意に行われたという特殊なケースの場合のみである。

2.119 通常利用可能な民事上の制裁には、損害賠償金支払いの裁定、差し止め命令、その他一般法に定める救済(差し押さえ、侵害製品またはその製造に使用された道具類の破棄など)が含まれる。

2.120 特許権者が裁判所に対し、侵害が生じたこと、あるいは現在生じつつあることを証明した場合、特許権者は、裁判所が決定する損害賠償額の支払いを受ける権利を有する。損害賠償の支払いは、特許庁による発明の開示(特許出願または付与特許の公開)後に侵害を行った侵害者に対してのみ請求されるものである。損害賠償額の計算法は、少なくとも2通りある。1つには、侵害の結果、特許権者が被った財務上の損失により計算するという方法。もう1つの計算方法は、侵害による利益の勘定に基づき損害賠償額を決定するという方法である。これは必ずしも、侵害者が侵害製品から得たすべての利益を特許権者が受け取れるということではないが、それでも、実際の利益から、極めて少ない誤差で利益勘定を予測することが可能である。さらに、損害賠償額は、ライセンシー側が支払っているロイヤルティ額から計算する方法もある。この場合、裁判所は、損害賠償額が各物品に対し支払われるロイヤルティ料を下回らないようにと判断することもある。また、それらの支払いはロイヤルティ料ではなく、あくまで損害賠償額であるので、損害賠償額がより高額に設定される可能性の方が高いと考えられる。

2.121 いくつかの国では、侵害日時点において、侵害者が特許の存在を知らなかったこと、または特許の存在を推量する合理的な根拠を有していなかったことを侵害者が証明すれば、損害賠償の支払責任を負わないことが法で規定されている。

2.122 差し止めとは、侵害行為を禁止することである。差し止めを行うには、裁判所が侵害者に対し、特許発明の模倣や侵害を中止するよう命令を発する。第三者が、侵害行為をまだ行っていないものの、侵害行為を行うための準備をしているような段階で(「差し迫った侵害」)差し止め命令が発せられる場合には、侵害行為を開始してはならないという意味を持つ。

2.123 刑事上の制裁は、その国ごとの刑法の体系や刑事手続きによって異なる。一般的な刑事上の制裁は、禁固刑または罰金、あるいはその両方である。

特許発明の利用

発明の売却

2.124 製品の評価だけでは不十分である。発明者は、発明の対象である製品について十分な市場があるかどうかについても知る必要がある。

2.125 だれが製品を購入するのか? 潜在的な市場はどの程度の規模か? これらは数値的に評価するのは困難な作業だが、製品が競争を勝ち抜くために重要なことである。政府機関が発表する地域の人口や潜在的市場の区分、あるいは民間企業による調査結果をもとに、年代別、あるいは配偶者の有無に応じた潜在的な市場分野の研究を進めることができる。

2.126 いくつかの高度なテクノロジー分野について、各研究機関や多国籍企業などは、初期段階の研究の種や未完成の技術を取得し、その開発を完成させることに対し、より大きな関心を示すようになっている。開発にかかる労力を抑え、競合業者を大きく引き離すことが目的である。

2.127 大企業では、本格的な商業生産に入る前に、「試験販売」の段階を踏むことが多い。潜在市場の典型的なタイプとみなされる購入層に対し、限定数の製品を投入するのである。小規模の事業者も、結局は売れ残ってしまう製品を市場に出すために膨大な時間と費用をかける前に、この技法にならって試験販売を検討すべきだろう。

2.128 基本的に、発明者が自分のアイデアを製品化するための方法は、2通りに分けることができる。まず、製品の製造能力を有する会社に製品アイデアを売却するか、ライセンス供与するという方法がある。もうひとつは、自ら工場を建てるか、場合によっては製造を外部委託することによって、自らが製造者になるという方法である。

2.129 企業によっては、新製品アイデアの売り込みに対し、ほとんど関心を示さない。企業が一般大衆から、まともな検討にも値しないアイデアの売り込み攻勢を受けていることも往々にしてある。大企業の多くは、自前の研究開発部門を擁し、これに膨大な研究開発費を投資している。従って、経営側は、当然ながら自社内の開発を優先する。あるいは、実際に社内ですでに同じアイデアの研究がなされていた場合であっても、売り込んできた発明者が自分のアイデアが盗まれたと主張するのではないかと警戒する会社もある。

2.130 社外の新製品アイデアの受入れについて、自社の方針や手続きを公開している大企業は多い。「持ち込みアイデア受入れ部門」がある会社もある。ほとんどの会社は、発明者から新アイデアについての特許のコピーを送ってもらうに越したことはないだろうが、発明者側としては、特許出願後すぐに、出願書類を提出することも可能である。

2.131 特許要件を満たさないアイデアを売り込む場合、発明者は、書類を送付する前に、その会社が新しいアイデアの売り込みに対しどのような方針で対処しているか、知っておく必要がある。会社によっては、必要なアイデアと判断すれば、言い値で支払いを行う用意があるという場合もある。

2.132 特許を受けたアイデアが採用された場合、発明者は、会社にその権利を一括で売却するか、会社とライセンス契約を締結するか、いずれかの方法を選択することができる。

強制実施権

2.133 特許権者が実施権を許諾する場合、そのライセンスは「自発的」な許諾とみなされ、「強制」実施権とは区別される。自発的ライセンスの受益者は、特許権者から発明に関する許諾を得ることにより、排他的権利の対象行為を行う権利を取得する。契約により許諾される場合は、一般これをライセンス契約といい、その発明に対する特許権者とライセンス受益者との間で締結される。一方、強制実施権の受益者は、発明に対する特許権者の意思に反する場合であっても、政府当局の許可により、排他的権利の対象行為を行う権利を取得する。

2.134 強制実施権が法に規定されている国では、一般に、強制実施権を次の2つに分類している。

特許権濫用の場合 ――特許権により保護される排他的権利の行使において、濫用を防止する目的で、強制実施権を規定している国がある。パリ条約第5A(2)条では、特許権の不実施が濫用の事例として挙げられている。

公共の利益 ――公衆衛生、防衛、経済発展など、公共の利益のために強制実施権が必要であるとみなされる場合に、強制実施権が認められると規定している国がある。

特許権の行使に起因する濫用を救済するための強制実施権の許諾

特許の不実施

2.135 一般に、「実施」の定義については各国の国内法の問題であるが、通常、少なくとも、製品を対象とする特許の場合にはその製品の製造、製法に関して付与された特許の場合にはその製法の使用を意味する。国によっては、発明を組み込んだ製品の輸入は、実施とはみなされないと特に規定している場合もあるが、昨今の傾向としては、この実施要件とは逆方向である。原則的に、実施要件は、特許権者またはライセンス契約を締結した個人・法人が特許発明を実施することにより満たされる。

2.136 具体的な議論に入る前に、特許とは、当業者が実施できる程度に発明を開示しなければならない点を思い出してほしい。よって、特許は、たとえそれが実施されていないとしても、その特許が他の発明を思いつくためのきっかけとなるなど、産業界にとってメリットがあるといえる。しかも、特許に記載される発明は、特許期間の満了後、公有財産(公知)となる。つまり、特許期間満了後、特許公報に記載される技術は、特許権者の許諾を得ることなく誰でも自由に(無償で)使用できるようになる。

2.137 これらのメリットにもかかわらず、いくつかの国においては、特許発明の排他的権利を十分に正当化するためには、特許認可国において発明が実施されていなければならず、他人による実施を禁じたり輸入制限を行ったりするための手段として機能するのみであってはならないと考えている。特許発明を現地で実施するという要件の主な目的は、技術の移転であり、特許付与国で特許発明を実際に実施することが、その国に対する技術の移転を最も効率的に実現する方法であると考えられている。

2.138 特定の国で発明の強制実施権を認めるべきでないとする議論には、2つの側面がある。ひとつには、こうした強制実施権がむしろ技術の移転という目標を妨げているというもの、もうひとつは、経済的に現実的でないとする議論である。

2.139 強制実施権に反対する1つ目の議論は、技術移転の促進という点で、強制実施権は自発的に許諾される実施権ほど効果がないということ、さらに、技術移転の促進という目標に対して逆効果だということである。別の言い方をすれば、自発的な実施許諾が技術移転を促す1つの方法であることが明白であるのに対し、強制実施権による実施許諾の場合には、技術移転という役割を果たすことなく、特許権の濫用を是正するという役割にとどまる。

2.140 技術の移転は、技術を供与する側と、受ける側との協調関係があってこそ最も効果的に行われる。この文脈では、特許権者とライセンシーとの協調ということになる。一般に、この協調関係が、商業的に市場に適応できる製品を作るために必要な、しかし特許取得に求められる開示要件を満たすのに必要とされない特許対象外「ノウハウ」の開示に結びつくといっていい。強制実施権による許諾の場合には、この協調関係が存在せず、従って特許対象外ノウハウの開示もなされない。特許権に基づく強制実施権の許諾は、単に特許発明を実施する権利が認められるだけで、完全な技術移転を行うには不十分と言わざるを得ない。

2.141 さらに、特許権者に対し、特許権を取得したそれぞれの国で、その特許権に基づき製品の製造を行うことを要件として課すことは、経済的に現実的とはいえない。そのような要件が課されるならば、地域的あるいは国際的な市場の統合について、または各国もしくは各地域を比較した場合の利点を認識することができなくなる。つまり、特許権者が、特許発明を組み込んだ製品あるいは特許製法により製造される製品につき、その製造工程をある1国の施設1カ所に統合すれば安く製造することができ、他国における需要に対しても輸入で対処可能であることに気付くということがあるかもしれない。実際に、特許権者が、製品の個別の構成要素(それぞれが特許による保護対象となっている)につき、いくつかの国や地域に分けて製造工程を行い、最終的な組み立て工程を1カ所の施設で、または1つの地域や国単位で行うのが最善の方法であると判断する場合もある。

2.142 上述した強制実施権に関する規定に対する批判に対し、反論としてよく主張されるのが次の2点である。第一に、強制実施権に関する規定がある国であっても、強制実施権の適用申請がなされるケースは極めて稀で、実際にその申請が認められることはさらに珍しいことから、実務上は、あまり重要な項目とはみなされていないという点である。第二に、たとえ実際に適用されることがほとんどないとしても、この規定があることにより、法的な可能性が生じ、特許権者に対し、より積極的に自発的なライセンス契約を締結するよう促す効果があるという点である。しかし、完全かつ継続的な技術移転を促進するためには、強制する・される関係よりは、自発的ライセンスの場合に一般に見られる協調関係の方がより効果的であることはいうまでもない。

2.143 パリ条約第5A(2)条では、加盟国は、特許権の行使に起因する濫用(不実施を含む)を防止するために、強制実施権を認める規定を設けることができると特に定めている。また、同第5A(4)条では、発明の不実施または不十分な実施に対する強制実施権の申請は、不実施や不十分な実施が一定期間継続した後でなければ申し立てることができないと規定している。この限定期間は、特許出願日から4年間または特許認可日から3年間のいずれかとすることが定められている。各個別のケースに適用される期間は、後に満了する方の期間である。

2.144 上記の3年または4年という期間は、特許による保護を取得した各国において、特許権者が特許発明の実施を開始するのに一定の期間を要することを加味した最低限の期間といえる。特許権者は、不実施の正当な理由、たとえば、法的、経済的または技術的な障壁によって、その国で発明を実施すること、あるいはより集中的に実施することができないことを示すことができるならば、より長い期間を与えられなければならない。そのことが証明できれば、強制実施権の申請は、少なくとも当面は却下される。上記の3年または4年という期間はまた、各国法により、さらに長い期間を設定できるという意味において、最低限の期間ということでもある。

2.145 パリ条約第5A(4)条はさらに、不実施または不十分な実施に対する強制実施権は、非排他的な実施権(通常実施権)でなければならず、実施の事業を行う企業の部門とともになされる場合を除き、強制実施権を移転することはできないと規定している。特許権者は、この強制実施権とは別に通常実施権を許諾する権利、そして自身が発明を実施する権利を留保していなければならない。さらに、強制実施権は、特定の法人に対し、その実施能力を知った上で認められるものであるため、その企業に対してのみ許諾され、その企業と切り離して移転することはできない。上記の制限事項は、強制実施権が市場において、強制実施権本来の目的、すなわち、その国における発明の十分な実施を確保するという目的に裏打ちされている以上の強固な地位を獲得するのを防止するための規定である。

手続き上の対抗手段および対価の支払

2.146 強制実施権が設定されることにより、特許権者にとって重要な財産的価値を有する財産権が使用されることになる。強制実施権は、特許権者の意思にかかわらず設定されることから、強制実施権が適切に設定され、行使されるためには、有効な抗告手続きなどを含む合理的な手続き上の対抗手段を確立しなければならない。対抗手段は、TRIPS協定第31条にも規定されている(以下、TRIPS協定に規定する「強制実施権」を参照のこと)

2.147 特に、特許庁など、強制実施権の設定に対し裁定を行う管轄当局は、強制実施権設定の条件が満たされていること、特許権者に自己の立場を表明する機会が認められることを確認しなければならない。さらに、裁定を行う管轄当局は、強制実施権の受益者が特許権者に対し、十分な金額を支払うことを確認し、さらに、強制実施権を認める根拠となった事由が消滅した場合、または受益者が強制実施権に基づく義務を果たしていない場合には、その強制実施権を取り消すための手段を提供しなければならない。

2.148 強制実施権が認められた場合であっても、受益者(ライセンシー)がロイヤルティ料を支払わなくて良いということにはならない。それどころか、この問題について定めている各国法は、一般に、ライセンシーが特許権者に対し、発明の実施に基づく支払いを行うよう求めている。

特許権濫用の場合における特許権の失効または取消し

2.149 強制実施権が認められれば、ほとんどの場合において濫用を是正するのに十分であると想定されるが、パリ条約第5A(3)条では、強制実施権を認めるだけでは不十分なケースにおいて、特許権の失効または取消しを規定している。この条文ではさらに、「最初の強制実施権が認められた後2年間が経過するまでは、特許失効または取消しを求める法的手続きを申し立てることはできない」と定めている。

公共の利益のための強制実施権許諾

2.150 いくつかの国では、特許権の濫用がなくとも、公共の利益のために強制実施権を認めることが必要とみなされる場合には、強制実施権を認めると規定している。一般に、公共の利益のために認められる強制実施権は、民間の個人または法人に認められる場合、政府自身に認められる場合、そして政府のために行為を行っている者に認められる場合とに大別される。

公共の利益のために認められる強制実施権(民間人に認められる場合)

2.151 公共の利益のために認められる強制実施権のうち、民間人に認められる場合の一例として、いわゆる「従属特許」の存在が挙げられる。この場合、強制実施権は、1つの特許(「基本特許」)の保護範囲である発明を実施することなく、別の特許(「従属特許」)にクレームされる発明を実施することができないという状況を是正するために認められる。このような場合において、従属特許の権利者が、基本特許の権利者と合理的な条件でライセンス契約を締結することができずにいるときは、従属特許の権利者には、基本特許の強制実施権が認められる。その強制実施権という選択肢が規定されていなければ、基本特許の権利者は、実施権の許諾を拒否することにより、従属特許にクレームされる発明の実施を阻止することが可能なのである。いくつかの国では、従属特許を実施できないという状況は、すべての特許発明について制約なく実施できるという公共の利益に反しているとみなされている。

2.152 国によっては、特許の従属関係が生じたいかなる時点でも強制実施権が認められると法に規定されている。また、従属特許は基本特許とは異なる目的を達成するものであるか、基本特許にクレームされる発明に関連して真に技術的な発展をもたらすものでなくてはならないと規定している国もある。後者の条件は、強制実施権により重要な発明を実施できるようにすることのみを目的として、出願人が、取るに足らない発明をもって特許出願しようとすることに起因する濫用を回避するという目的に資するものである。

2.153 基本特許と従属特許それぞれの特許権者の立場の間で一定のバランスを保つために、従属特許の特許権者に基本特許に基づく強制実施権が認められている場合には、基本特許の特許権者にも従属特許に基づく強制実施権が認められると法で規定している国もある。

2.154 発明の不実施に追加して、独占禁止法に違反して特許を使用することも公共の利益に反する行為として法に定めている国もある。独占禁止法の違反があれば、対象特許の行使不能性または無効性にかかわらず、強制実施権を認めることを保証している。

公共の利益のために認められる強制実施権(政府に、または政府のために行うものに認められる場合)

2.155 公共の利益のために、政府が特許権者の同意なく発明を利用すること、あるいは第三者に発明を利用させることを認めている国は多い。これらのケースは主に、国防、国家経済および公衆衛生の3つの分野で生じている。

2.156 公共の利益のためにという場合、ほとんどのケースでは、特許権者の意思に反する場合であっても、当該特許の保護範囲である行為を実施するために政府が指名した法人または個人に対し、国が実施権限を認めれば十分とされる。それぞれの具体的なケースにおいては、政府がどの行為を実施すべきかについて判断を行うことになる。

2.157 こうした公共の利益のために取られる措置は、特に国家の緊急事態が生じた場合に適している。医療機器を例に挙げれば、突発的に疫病が発生したような場合に、その医療機器を極めて迅速に輸入する必要があるかもしれない。特許権者側が、輸入を望まない、あるいは合理的な条件で輸入のためのライセンス契約を締結したがらないという場合には、政府は、別の企業にその装置を輸入するよう要請したり、自ら輸入することを決定することができる。しかし、疫病が沈静化すれば、この措置(強制実施権)を維持する理由がなくなり、特許権者は、特許権に付随するすべての権利をその支配下に取り戻すことができる。

手続き上の対抗手段および対価の支払い

2.158 強制実施権を認めることは、特許権者の同意なく特許権者の貴重な財産権を利用する権利を供与することになるため、強制実施権の設定が、諸条件による裏付けに基づく場合にのみ限定されるよう、手続き上の対抗手段を確立しておく必要がある。さらに、特許権者に対し、その財産権利用の対価を支払うための規定も定めなければならない。対抗手段については、TRIPS協定(以下参照)第31条にも規定されている。

TRIPS協定に規定する強制実施権

2.159 本稿第5章のTRIPS協定について説明している部分についてここで触れておく。TRIPS協定第31条は、たとえ特許権者の意思に反する場合であっても、一定の条件を満たせば、加盟国が第三者に特許発明を利用する権限を与えることを認めている。TRIPS協定は、その権限の根拠を詳細に規定しておらず、また何らの制限も課していない。

2.160 加盟国の1つにおいて、政府により、または政府のために認められる場合を含め、強制実施権を認めている場合、あるいは特許権者の承諾なしで特許発明を使用するその他の手段を規定している場合には、次の条件を順守しなければならない。

  • (a)強制実施権は、個別の利点を考慮した上で認められなければならない。すなわち、強制実施権の申請に対しては、ケースバイケースで検討を行わなければならない。
  • (b)強制実施権は、その被許諾者が特許権者から合理的な商業的条件で許諾を得るための努力を行い、合理的な期間内にその努力が実を結ばなかった場合に限り、認められる。加盟国は、国家の緊急事態その他高度に緊急を要する状況が生じた場合、あるいは公共の非営利目的のために使用される場合には、この要件を排除することができる。
  • (c)強制実施権の範囲と有効期間は、その実施権が認められた目的により限定されなければならない。しかし、半導体技術に関しては、強制実施権は、公共の非営利目的のために使用される場合、または反競争的とみなされる商慣行を是正する目的のために使用される場合に限定して認められる。
  • (d)強制実施権は、非排他的な実施権(通常実施権)でなければならない。
  • (e)強制実施権は、その実施権に基づき製品の製造を行う会社またはその営業権とともに移転される場合を除き、第三者に移転してはならない。
  • (f)強制実施権は、主として、その実施権を認める加盟国の国内市場における供給を満たすことを目的として認められる。
  • (g)強制実施権を正当化する状況が終息し、再度生じる可能性がないと判断される場合には、強制実施権による正当な利益を十分に保護した上で、この強制実施権を終了させなければならない。
  • (h)特許権者には、各ケースに応じ、認められた使用の経済的価値を考慮した上で、十分な報酬が支払われなければならない。
  • (i)強制実施権の裁定に関連する決定の法的有効性については、その実施権を認めた加盟国における司法による審査、またはより高度な権限を有する別の当局による独自の審査を受けなければならない。
  • (j)強制実施権に関する報酬の決定については、その実施権を認めた加盟国における司法による審査、またはより高度な権限を有する別の当局による独自の審査を受けなければならない。
  • (k)各加盟国は、反競争的と判断された商習慣を是正するために認められた強制実施については、上記第(b)項と(f)項に記載される条件を適用することを義務づけられない。こうした場合、報酬額の決定において、その反競争的商習慣を是正する必要性の度合いを考慮することができる。加盟国における管轄権を有する当局は、強制実施権を正当化する条件が再度生じるおそれがあると判断する場合には、その強制実施権の終了を拒絶する権限を有する。
  • (l)特許権者が異なる2つの特許間において従属関係が認められ、先に認可された特許を侵害せずに後に認可された特許を利用することが不可能である場合には、次の追加要件が適用される。
  • 後に認可された特許にクレームされる発明には、先に認可された特許にクレームされる特許に関連して、経済的に重大な影響力を持つ技術上の重要な発展が含まれていなければならない。
  • 先に認可された特許の特許権者は、後に認可された特許にクレームされる発明を使用するための、合理的な条件に基づくクロスライセンスを受ける権利を有する。
  • 先に認可された特許に関連して認められた使用権は、後に認可された特許の移転とともになされる場合を除き、第三者に移転してはならない。

実用新案

2.161 いくつかの国においては、「実用新案」に基づく保護を取得することができる。「実用新案」とは、本質的に、一定の発明に対し与えられる呼称に過ぎない。つまり、実用新案に関する条項を有するほとんどの国の法によれば、機械分野の発明に対し与えられる呼称ということである。実用新案の対象が、装置または有用な事物と規定されていることが多いのは、このためである。実用新案は、主に2つの点で、特許が認められる発明と異なる。第一に、実用新案に求められる技術的な進歩は、特許が認められる発明に求められる技術的進歩(「進歩性」)よりも小さいという点。第二に、実用新案法に規定される最大限の保護期間は、一般に、特許が認められる発明に対し法に規定される保護期間よりもずっと短いという点である。実用新案に基づき発明者が発行を受ける文書は、いくつかの国においては、特許と呼ばれる。特許と呼ばれる場合であっても、発明特許と区別する場合には、常に、実用新案特許と明示しなければならない。