2.300 商標はすでに古代世界から存在していた。生活に必要な物を自分で作ったり、たいていは地元の職人から入手していた時代でさえ、地域の枠を越え、ときには遥か遠方まで商品の取引を行っていた独創的な事業家はすでにいたのである。遡ること3千年もの昔、インドの職人たちは工芸品をイランに送り出す前に自分の作品に署名を彫り込む習慣があった。中国の製造業者たちは2千年以上前に、各自のマークを付けた商品を地中海沿岸地域で販売していたし、かつて古代ローマの陶器には約千種類もの異なるマークが使用されており、なかでもFORTISブランドはとくに有名で、模造品や偽造品が出回っていた。中世に入り貿易が盛んになるにつれて、それぞれの商人や製造業者の商品を区別する目的で標識の使用が広く普及したのは数百年前のことである。しかし、こういった標識の経済的重要性はまだ限られたものであった。
2.301 商標は産業化に付随して重要な役割を果たすようになり、それ以来、現代社会の国際貿易および市場指向経済において不可欠なファクターとなっている。産業化が進み市場指向経済システムが発達したおかげで、競合する製造業者や取引業者たちは同じカテゴリーのさまざまな商品を消費者へ提供できるようになった。こういった商品の大半は品質、価格その他の特徴がたしかに異なってはいるが、消費者にとって歴然とした違いが認められるわけではない。明らかに消費者は、似通った商品を検討し、競合品の中から一つを選択する際の指標が必要である。要するに、商品を特定できなければならない。そして、市場で商品を特定する手段こそまさに商標である。
2.302 商標によって消費者は市場で入手可能なさまざまな商品の中で選択を下すことができるようになり、商標の所有者は消費者の期待に応えるため、自己の商標を付けて販売する製品の質を維持し高めようとする。このように商標は、一貫して高品質の商品を生産する製造業者に恩恵をもたらし、結果的に経済の発展に貢献しているのである。
2.303 「商標とは、所定の企業の商品を個別化し、その商品と競業者の商品を区別する標識である」。この定義は二つの側面から構成されており、それぞれの側面が商標の異なる機能として取り上げられることもあるが、双方は相互依存の関係にあるため、実際には常に合わせて考慮されるべきである。
2.304 消費者に対して製品を個別化するために、商標はその出所を表示しなければならない。とはいっても、実際にその製品を製造した人物または取引している人物を消費者に知らせなければならないという意味ではない。消費者が知っている企業ではなくても、所定の企業がその商標を付けて販売される製品に責任を負っていることを消費者が信用できれば十分である。
2.305 上記に述べた出所表示機能は、商標が所定の企業の商品と他企業の商品を区別できることを前提としている。つまり、その商標を付けて販売されている製品と、市場で提供されている他企業の商品を消費者が識別できる場合にかぎり、その商標は出所表示機能を果たすことができるのである。これは、識別機能と出所表示機能が実際に切り離せないことを立証している。それゆえ事実上、商標の識別機能だけを論拠として、「所定の企業の商品と他企業の商品を区別可能な標識」と定義づけることも可能である。
2.306 これは、標章、商号および不正競争行為に関する途上国のための1967年WIPO模範法(「模範法」)の第1条(1)(a)項により選択されているアプローチである。
2.307 現代の取引において、消費者はあらゆる種類の膨大な数の商品に加え、国内にかぎらず国際的な規模でも提供されるようになった多種多様なサービスにも直面している。それゆえ保険会社、自動車レンタル会社、航空会社などのさまざまなサービスについても消費者が識別できるような標識が必要である。このような標識はサービスマークと呼ばれ、商標の商品に対する機能と基本的に同様のサービスに対する出所表示および識別機能を果たす。
2.308 サービスマークは実際に商標ときわめてよく似た標識であり、本質的に同じ基準を適用することができるため、現行の商標法に対するごく簡単な補正によってサービスマーク保護が導入され、商標保護に関する条項が、必要に応じた変更を加えて、サービスマークに適用されている場合もある。
2.309 上記の原則に照らし、サービスマークは商標と同じ方法で登録、更新および取消しが可能であり、さらに同じ条件で譲渡および使用許諾も可能であるという結論になる。したがって、商標のために定められた規則が、ほぼ同様にサービスマークにも適用される。
2.310 概して商標は、標章を付けた商品またはサービスの出所として個々の企業を特定する。一部の国では、特定の標章を使用する企業の系列を表示するために使用される、または特定の標章を付けた製品が遵守する認定可能な基準を表わす、団体標章および証明標章の登録を規定している。
2.311 これらの標章に関する国内法の関連規定に共通して見られる特徴について、以下に述べる。
2.312 団体標章は団体により所有されるものであり、団体自体は団体標章を使用しないが、団体のメンバーが団体標章を使用する。たいていの場合、かかる団体は、そのメンバーが特定の品質基準を遵守していることを保証する目的で設立されている。かかるメンバーは、その団体標章の使用規約に定められた要件を満たしている場合に、団体標章を使用することができる。したがって、団体標章の機能は、その団体標章が用いられる製品の独自の特徴について公衆に知らせることである。団体標章を使用する資格を与えられた企業は、団体標章と一緒に自己の商標を使用することができる。
2.313 団体標章の登録出願には通常、その団体標章の使用規約が添付されなければならず、かかる規約のあらゆる修正が商標庁へ通知されなければならない。一部の国(例えば、ドイツ連邦共和国、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンおよびスイス)では、団体標章が使用規約の規定に違反して、または公衆に誤認を生じる方法で使用された場合に、団体標章の登録を取り消すことができる。したがって、団体標章は誤認を生じる活動から消費者を守るうえで重要な役割を果たしている。
2.314 パリ条約は、その第7条の2に団体標章に関する規定を盛り込んでいる。これらの規定は、とりわけ団体標章を所有する団体が設立された国以外の国において団体標章の登録および保護が認められることを保証している。つまり、保護が申請されている国の法律にしたがって当該団体が設立されていないという事実は、かかる保護を拒絶する理由にはならないという意味である。その一方で、パリ条約は、各同盟国が独自の保護条件を適用し、団体標章が公益に反する場合には保護を拒絶する権利を明示的に定めている。
2.315 証明標章は、所定の基準にしたがう場合にかぎり使用することができる。団体標章と証明標章との主な相違点は、前者は団体標章を所有する団体のメンバーなど、特定の企業しか使用できないのに対し、後者は所定の基準を満たすあらゆる者が使用できることである。このように、団体標章の使用者は「クラブ(会員制組織)」を形成するのに対し、証明標章に関しては、「オープンショップ(会員資格に影響されない組織)」原則が適用される。
2.316 証明標章の登録に関して重要な要件は、登録を申請する事業体が対象となる製品を「証明する正当な権限を有している」ことである。それゆえ、証明標章の所有者は、その証明標章が用いられる製品の代表者でなければならない。証明標章は、誤認を生じる活動から公衆を守る重要な保護手段である。
2.317 「証明標章」の定義は、すべての国において同一というわけではない。例えば、米国においては、証明標章は所定の基準を満たすあらゆる者が使用できるのではなく、その証明標章の所有者から当該標章の使用を許可された企業だけが使用できる。したがって米国では、証明標章と団体標章との違いが他の国々ほど顕著ではなく、これら2種類の標章の目的が異なっているだけである。要するに、証明標章は製品またはサービスの特定の基準を表わすのに対し、団体標章は特定の組織における使用者の会員資格を表わしている。
2.318 商標の目的に照らし、特定の商品と他の商品を区別可能なあらゆる標識は事実上、商標とみなすことができるという結論が引き出せる。それゆえ商標法は、登録可能な標識の網羅的なリストを作成しようなどと試みるべきではない。実例を挙げる場合には、かかる実例は網羅的ではない、登録可能なものの実際的な例証でなければならない。制限を設ける場合には、かかる制限は、実施可能な登録の必要性および登録商標の公表の必要性といった、実務上の要件のみを根拠とすべきである。
2.319 標識は所定の企業の商品と他企業の商品を区別可能でなければならないという原則を厳密に守ると、以下の種類およびカテゴリーの標識が想定される。
2.320 先述したように、各国は実務上、登録可能性に制限を設けることができる。ほとんどの国は、商標の登録を公衆に通知する目的で商標公報により物理的に登録および公表できなければならないため、図形的に表示可能な標識の登録だけを認めている。
2.321 多くの国が立体商標の登録を認めており、その出願人に対して立体標識の平面的表示(図面、写真もしくは印刷可能な他のあらゆる表示)または説明、あるいはその双方の提出を義務づけている。しかし、実際問題として、立体標識の登録によって何が保護されるのかは必ずしも明確ではない。
2.322 同様の問題が音響標識についても存在する。もちろん一連の音符は図案標章として登録可能であるが、かかる登録は通常、そこに表現されている実際の音楽のフレーズに保護を与えるものではない。保護されるのは登録された一連の音符であって、同様の図案の使用が阻止される。一方、音標は明らかに商標としての役割を果たすことができるため、米国などでは音標の登録を認めている。これは実務上、登録を受けるために、その音を録音したカセットテープを米国特許商標庁へ提出しなければならないことを意味する。
2.323 米国は匂い標章の登録可能性を最初に認めた国であり、最初の匂い標章は、縫い糸および刺繍糸に対するプルメリアの花を連想させるフレッシュ・フローラルの香りであった(TTAB(商標審判部)1990年)。EU域内市場調和局(OHIM)(商標および意匠)の審判部は、1999年2月11日の決定において、テニスボールに対する匂い標章「新鮮な刈り草の匂い」の登録可能性を支持している(R 156/1998-2)。
2.324 標識が商標としての役割を果たすために満たさなければならない要件は、全般的に世界共通の基準となっている。概して、かかる要件は2種類に分けられる。
2.325 最初の種類の要件は、商標の基本機能、すなわち特定の企業の製品またはサービスと他企業の製品またはサービスを区別する機能に関するものである。この機能に照らして考えると、商標は識別力がなければならない、すなわち異なる製品を区別できなければならないという結論になる。
2.326 二つ目の種類の要件は、商標が誤認を生じる特徴を有している、または公序良俗に反している場合に起こりうる、商標の有害な影響に関するものである。
2.327 これら2種類の要件は、ほぼすべての国の商標法に存在している。また、これらの要件はパリ条約の第6条の5Bにも盛り込まれており、その規定によれば、第6条の5Aにもとづいて保護を受ける商標は「識別性を有していない」場合にかぎり、あるいは「道徳または公の秩序に反するもの、特に公衆に誤認を生じるようなものである」場合にかぎり、登録を拒絶される。
2.328 商標が機能を果たすには、識別力がなければならない。識別力のない標識は、消費者が選択した商品を特定するうえで役に立たない。「アップル」という言葉またはリンゴの図案をリンゴに対して登録することはできないが、コンピュータに対しては高い識別力を有する。つまり、識別力はその商標が用いられる商品に関して評価しなければならない。
2.329 商標に識別力があるかどうかの分析は、消費者、または少なくともその標識を提示された人たちの判断に頼らざるを得ない。標識を提示された人たちにより、その標識が特定の供給元の商品を特定するものとして認識される、またはそのように認識することが可能である場合に、標識はそれが用いられる商品に対して識別力を有している。
2.330 標識の識別力は、絶対的な不変のファクターではない。その標識の使用者または第三者によって講じられた措置により、識別力が獲得または増強される場合もあり、逆に喪失してしまうことさえある。登録官がその標識に必要な識別力が欠如していると考える場合、すなわち内在的な識別力がないと判断する場合には、その標識の使用(おそらく長期間の大規模な使用)など実際の状況を考慮に入れる必要がある。
2.331 もちろん識別力にも程度の差があり、登録が認められるには標識がどの程度の識別力を備えていなければならないかが問題となる。この点に関し、典型的な特定のカテゴリーの標章--意味のない独創的または造語の商標--と、それ以外のものとは区別される。前者のカテゴリーの有名な例が、KODAK商標である。
2.332 こういった商標は消費者に認知されるようになるまでに相当な広告投資を必要とするため、マーケティング担当者には不人気かもしれない。しかし、本質的にきわめて強力な法的保護を受けることができる。
2.333 日常的言語のありふれた言葉も、それが用いられる製品に直接関連性のない恣意的な意味を伝えるのであれば、高い識別力をもつことができる。同じことが同様に恣意的な図案にも当てはまる。例としては、タバコに対する有名なCAMEL(ラクダ)商標(および同様に有名な図案標章)や、先述したコンピュータに対するAPPLE(リンゴ)標章(言語標章および図案標章)が挙げられる。
2.334 概してマーケティング担当者は、消費者の心理においてその製品が好意的に連想されるブランド名を好む。それゆえ多少なりとも記述的な用語を選択する傾向が強い。標識が極端に記述的である場合、その標識は識別力を欠いており、商標として登録することはできない。しかし、無意味でもなく、恣意的な用法でもないすべての標識が、識別力を欠いているわけではない。実際には記述的にはならずに、標識が用いられる商品およびかかる商品の性質、品質、出所その他の特徴を連想によって示唆する、中間的なカテゴリーの標識が存在する。こういった標識は登録可能である。実務上、商標がその指定商品に関して示唆的か記述的かという問題がきわめて重要となる。この問題は、該当する国の国内法および判例に加え、特定の事例のすべての状況に照らして判断されなければならない。原則として、記述的な用語は、二次的意味を獲得した場合、すなわちその用語を提示された人たちにより、その用語が特定の供給元の商品を示すものとして認識されるようになった場合に、その商品に対して識別力があるということができる。
2.335 用語が記述的なのか示唆的なのかが判然としない場合、その標章が一定期間にわたり取引の過程で使用されてきたという事実があれば、登録許可の十分な根拠とみなされる可能性もある。
2.336 しかし、用語が記述的であればあるほど、二次的意味を立証するのは難しくなり、高い割合の消費者の認知度が必要となるだろう。
2.337 標識に識別力がない場合には、商標としての機能を果たすことができないため、登録は拒絶されるべきである。出願人は通常、識別力を立証する必要はない。識別力の欠如を立証するのは登録官の責務であり、識別力の欠如が明白ではない場合、商標は登録されるべきである。一部の商標法は、出願人に自己の標章を登録すべき根拠を立証するよう義務づけている。しかし、このような実務は行き過ぎであると思われ、所有者の商品を明らかに区別可能な標章の登録が妨げられることもある。とはいえ、ECハーモナイゼーション指令の第3条や模範法にも反映されているように、識別力の欠如を商標登録出願の拒絶理由として扱うのは、現在の顕著な趨勢である。
2.338 識別力の欠如を理由とする登録の拒絶が準拠する基準はどこにあるのだろうか?
2.339 商品が属しているカテゴリーまたは種類を定義づける標識は、総称的である。このような総称的用語の独占をいかなる者に対しても認めるべきではないということは、取引にとって、さらに消費者にとってもきわめて重要である。
2.340 総称的用語の例としては、(家具全般に対する、さらにテーブルや椅子などに対する)「家具(ファニチャー)」、および(椅子に対する)「椅子(チェア)」が挙げられる。「ドリンク」、「コーヒー」および「インスタントコーヒー」は、商品のカテゴリーやグループにも大小さまざまな範囲があることを示しており、カテゴリーやグループを表わすために一貫して用いられる広義の用語は総称的であるという点で、すべて共通している。
2.341 このような標識は識別力がまったくなく、一部の法域では、たとえ大規模に使用されて二次的意味を獲得していたとしても、総称的用語は登録不能と裁定されている。なぜなら取引において使用できなければならないという絶対的必要性に照らし、独占されるべきではないからである。こういった理由で、インドのデリー高等裁判所は1972年に、ヒンディー語で低価格を意味するJANTA商標の登録を拒絶した。
2.342 記述的標識とは、その標識が用いられる予定の、または用いられている商品の種類、品質、意図される目的、価値、原産地、生産時期その他の特徴を示す役割を取引において果たすものである。
2.343 先述した識別力のある標識の定義にしたがい、分析を行う際には、消費者が標識を製品の出所表示(識別力のある標識)として認識するかどうか、または商品の特徴もしくは地理的原産地の表示(記述的標識)とみなすかどうかを明らかにしなければならない。ここで「消費者」という用語は、特定の事例において考慮されるべき関係者グループ、すなわちその標識を提示された人たち(特定の場合には、他の方法によりその標識に接触する人たちも含まれる)を意味する省略形として用いられている。
2.344 したがって、消費者がその標識を出所表示として、または商品の特徴の表示として認識する可能性を分析する際に、他の取引業者が用語の公正使用に正当な利害関係を有しているという事実を一種の追加理由として用いることができる。しかし、消費者がその用語を記述的であると判断する可能性が明白ではない場合には、かかる追加理由だけにもとづいてその用語の登録を拒絶すべきではない。
2.345 他の理由により標識が識別力を欠いている場合もある。これに当てはまるものとしては、図案が単純である、または純粋に説明的もしくは装飾的であるために、製品の出所を表示する標識としてはまったく消費者の関心を引かないが、消費者に提供される商品のパッケージの説明的部分としては消費者の関心を引く図案が挙げられる。
2.346 例えば(言葉に関しては)、パッケージ上に再現されても非常に複雑なために消費者が製品の出所表示であるとは認識できないような、消費者に商品を推薦するかなり長い広告スローガンなどがそうである。
2.347 所管庁は実務上、多くの法律に拒絶理由として明示されている他の代表的な問題にも対処しなければならない。そういった問題を以下に取り上げる。
2.348 地理的原産地(出所表示機能の趣旨における商品の出所とは異なる)の表示は、基本的に識別力がない。地理的原産地の表示は、該当する商品もしくはその生産過程で使用される材料の製造場所として、または--実際の状況によっては--商品の出所に起因する一定の特徴として示される、地理的名称との関連性を消費者に伝える。
2.349 こういった関連性を消費者に伝えるには、当然のことながら表示された地理上の場所がまず--少なくともある程度は--消費者に知られていなければならない。それゆえ実際に知られていない場所を表示する標識は、識別力がある。誰もその商品が製造された所であるとは思わないような場所の表示も、識別力を有する。
2.350 たとえ地理上の場所が消費者に知られていても、同じ活動分野における他の製造業者または取引業者が存在せず、将来その場所に競業者が定住する可能性もないのであれば、その場所を表示する標識は、識別力を有する、または獲得する可能性がある。
2.351 さらに地理的名称は、競業者がすでにそこに存在している、または将来そこに定住する場合であっても、長期間の大規模な使用により、商標としての識別力を獲得できるほど強い関連性が特定の企業との間に生じる可能性がある。
2.352 これらの標識は識別力がないとみなされ、登録できない場合が多い。一部の国の商標法(旧ドイツ商標法など)には、これらを登録から明示的に排除するものや、三つ以上の文字および/または数字が組み合わされている場合、もしくは文字に関して一連の文字が発音可能な場合にかぎり登録を認めるものもあった。
2.353 たしかに消費者は通常、文字、数字または単純な幾何学形状を商品の出所表示としては認識しないだろう。しかしながら、文字、数字およびそれらの組合せは使用をとおして識別力を獲得することができるため、先述したように、これらの公正使用における他の取引業者のいわゆる正当な利害関係を拒絶理由とすべきではない。最近の国際的趨勢は、こういった標識の登録をより柔軟に認める方向に進んでいる。
2.354 さらに、まったく使用されていなくても、文字および数字が独創的図案に含まれて出願される場合には登録される可能性がある。
2.355 例えば、インドもしくはスリランカにおけるタイ語の筆記文字標章、スイスにおける漢字、米国におけるシンハラ語(スリランカ)の文字、または日本以外の国における日本語(カタカナおよび漢字)の使用を思い浮かべてほしい。大半の普通の消費者にとって、これらの標章は純粋に独創的な図案である。したがって、その標識の図形的表示により装飾的効果しか生じない場合を除き、原則として識別力が認められる。
2.356 これらの標章は識別力があるため、基本的に登録可能である。しかし、登録官は現地の筆記文字による翻訳(その意味の説明)を要求することができる。
2.357 彩色された、または色彩と組み合わされた言葉および/または図案の使用は通常、識別力を増大させる。それゆえ、出願書類に提示または説明された色彩の権利を請求する標識の出願は登録されやすい。1876年に英国で最初に登録された色彩商標(現在も登録されている)は、赤い三角形(基本的な幾何学形状)であった。しかし同時に、保護は原則としてその標章が登録されている実際の色彩に限定される。したがって、登録標章がモノクロであれば、混同を生じるほど類似とみなされたかもしれない標章が、異なる色彩を使用しているために保護の範囲外となる可能性もある。モノクロで登録された標識は、色彩に関係なく混同を生じるほど類似の標識の登録および使用を阻止できるため、さらにモノクロ標識の登録所有者は、基本的に好きな色彩でその標識を使用できるため、彩色された標識を登録しないのが一般的である。しかし、所定の色彩または色彩の組合せが、その所有者によって一貫して使用される商標の重要な要素であるために、競業者による色彩の模倣が懸念される場合もある。つまり、その標章がモノクロで登録できるほど十分な識別力を備えていても、商標所有者は使用される特有の色彩で標章を登録することに実質的な利益を有する場合もある。上記に述べた色彩標章の保護範囲が制限されるリスクを排除するため、色彩標識の所有者はモノクロおよび実際に使用される色彩の双方により当該標章を登録することができる。
2.358 個々の色彩または色彩の組合せだけで構成される標識も、登録可能な商標となりうる。このような標識は、模範法の第1条(2)項において登録可能な標識の例として挙げられている。実務上の問題としてさまざまな国において、こういった標章が内在的な識別力を有するのか、あるいは--たいていの場合がそうであるように--使用をとおして識別力を獲得できる本質的に記述的なものとみなされるかが判断されている。
2.359 会社名および商号は、誤認を生じたり、識別力がない場合を除き、登録可能である。
2.360 一般的な名字は識別力がないため、一部の国では登録を受けることができない。このような国において、さほど一般的ではない名字の場合には、日常的言語における別の意味が圧倒的多数の消費者によって認知されていることを立証しなければならない。このような支配的意味が存在する場合、かかる標識は、その支配的意味が指定商品に関して記述的ではないという条件で登録可能である。
2.361 商品の性質、品質その他の特徴または地理的原産地に関して公衆に誤認を生じるおそれのある商標は、公益により登録を受ける資格がない。
2.362 ここで行われる分析は、指定商品と結びついた場合に生じる、その商標自体に固有の内因的誤認に関するものである。この分析は、同一/類似商品に対する同一/類似商標の使用に起因する消費者の混同のリスクに関する分析とは明確に区別されるべきである。
2.363 たしかに独創的な商標または指定商品に対して恣意的な意味を有する標章は、誤認を生じない。一方、記述的意味を有する商標は、暗示的または示唆的であるという理由だけで識別力を有していても、誤認を生じるおそれがある。それゆえこのような商標は二つの視点から分析する必要がある。つまり、第一に識別力がなければならず、第二に誤認を生じるものであってはならないという二つの観点である。
2.364 一般に、商標の識別力が強ければ強いほど、そこに表示された特徴を有する商品に使用されなければ、誤認を生じる可能性は高くなる。
2.365 地理的原産地に関して記述的または指示的な標識は、そこに表示または指示された地域で生産されていない製品に対しては虚偽である。このような場合、地理的原産地の表示が消費者にとって間違った言外の意味を有していれば、消費者は誤認を生じるだろう。
2.366 定評のある地域または場所については、とくにそうである。このような標識の有名な例として、「シャンパン(シャンパーニュ)」および「スイス・チョコレート」などがある。
2.367 実際問題として、地理的原産地を直接表示する例は比較的稀である。多くの場合は間接的表示が行われており、こういった事例の方が問題をはらんでいる。チョコレートに対する有名なスイスの山の表示は、代表的なアルプス山脈の風景からなる図案標章であるため消費者に誤認を生じるおそれがある。
2.368 たしかに外国語の言葉の使用も、一定の状況下では、特定の地理的原産地の表示がなくても誤認を生じる可能性がある。明らかに特定の外国語の言葉であるという事実そのものによって、その言語を話す国で生産された製品であるという印象を消費者に与えかねない。それゆえ、かかる国がその商品に対して評判を得ているのであれば、消費者は誤認を生じるだろう。
2.369 ただし、英語は世界中の多くの国々で話されているうえに、現代の国際マーケティング言語にもなっているため、結果的に多くの英語の商標がその商品の地理的原産地とはまったく無関係な英語の言外の意味を有しており、消費者もそのことを広く認識しているということを忘れてはならない。
2.370 先述したように、商標が内因的に誤認を生じるかどうかという問題は、その出願の指定商品に関して分析されなければならない。したがって、出願の指定商品のリストによっては、一部の商品については識別力を有するが、他の商品については記述的であったり、誤認を生じる可能性もある。このような場合、審査官は指定商品リストの減縮を要求しなければならない。出願人がかかる減縮に同意しない場合、審査官が出願全体を拒絶する国もある。また、審査官がその標章により誤認が生じないと判断する指定商品のみについて出願を許可し、残りの指定商品については出願を拒絶するという国もある。
2.371 商標法は基本的に、公序良俗に反する標識の登録を認めていない。模範法も第5条(1)(e)項にこの拒絶理由を記載すると共に、例として猥褻な写真や公共団体または禁止された政党の紋章を挙げている。
2.372 概して各国は、国旗、国の公式名称および公的機関の名称を国家のために保護している。さらに各国は、パリ条約の第6条の3により、他の同盟国および国際的な政府間組織(国際連合など)の指定された標識を保護する義務も負っている。
2.373 商標は、使用または登録のいずれかにもとづいて保護を受けることができる。歴史的に双方のアプローチが展開されてきたが、概して現在の商標保護制度は、双方の要素を結合させている。パリ条約は締約国に対し、商標登録を規定するよう義務づけている。これまでに 150を超える国々がパリ条約に加盟した。現在、ほぼすべての加盟国が商標登録を規定しており、登録によってのみ十分な商標保護が適正に保証されている。
2.374 しかし、使用が果たす役割は依然として重要である。まず、伝統的に使用にもとづいて商標を保護してきた国では、商標の登録は使用によって獲得された商標権の確認にすぎない。したがって、商標紛争で優先されるのは、その商標の最先登録者ではなく、最先使用者である。
2.375 商標保護はそれ自体が目的ではない。商標法が基本的に商標登録出願の条件として使用を要求していない、または実際の登録さえ要求していない場合であっても、商標保護の終局的理由は、その商標が用いられる商品と他の商品を区別する機能である。したがって、商標の使用を義務づけないまま登録により商標を保護することは、経済的な意味をなさない。不使用商標は、新しい標章の登録を人為的に妨げる障害である。商標法において使用義務を規定することが絶対に必要である。
2.376 同時に、商標所有者は使用義務を課せられる前に、登録後の一定の猶予期間を必要としている。とりわけ国際貿易に積極的な多くの企業にとっては猶予期間が必要である。新しい商標の保護に関して競業者につけ込む隙を与えないよう、最初から将来使用する可能性のあるすべての国に新しい商標の登録を申請しなければならない。自分の国においてさえ、会社が新しく開発した製品を本格的に市場で発売できるようになるまでに数年を要することが多い。とくに臨床試験を行い、衛生当局に製品の承認を申請しなければならない製薬会社の場合はそうである。
2.377 使用義務を規定する商標法において認められる猶予期間は、3年間のこともあるが、多くの場合は5年間である。
2.378 正当化されない不使用の重大な結果として、正当な利害関係を有する者の請求により登録が取り消される可能性がある。さらに、利害関係を有する第三者が不使用を立証するのはきわめて困難であるため、登録所有者に使用の立証責任が課せられる傾向が強い。登録簿から「無用の長物」を取り除くために、このような立証責任の転嫁が正当化されている。
2.379 取消し手続きだけでなく、商標所有者による不使用商標権の不当な利用について申し立てる他のあらゆる手続き(異議申立手続き、侵害訴訟)においても、商標所有者に立証責任が課せられるべきである。
2.380 しかし、商標登録の更新については、使用の証拠を要求すべきではない。利害関係者はいつでも不使用商標の登録に対して適切な措置を取ることができるという事実に照らし、このような証拠の要求は不要であり管理を煩雑にするだけである。
2.381 不使用が必ずしも商標権の無効に結びつくわけではない。不可抗力や、国内における輸入制限または特殊な法定要件といった、標章所有者サイドの過失または不注意が原因ではない他の状況が生じた場合には、不使用が正当化される可能性がある。
2.382 不使用が商標権の喪失につながる場合もある。しかし、不適正な使用によっても同じ結果がもたらされることがある。登録対象の商品またはサービスの一部について標章が一般名称化するのを登録所有者が誘発または黙認していた場合には、当該標章は登録簿から削除されるおそれがあり、結果的に取引関係者の間で、さらに関係する消費者および一般大衆の見地から、標章としての意味合いが失われてしまう。
2.383 基本的に二つの原因から一般名称化が生じる。二つの原因とは、すなわち標章の一般名称化を誘発する、所有者による不適正使用、および所有者により黙認されている、第三者による不適正使用である。
2.384 不適正使用を回避するため、当該商標を所有する会社においてそのブランドの広告または広報に関与するあらゆる者は、いくつかのルールを遵守しなければならない。
2.385 基本ルールは、製品の呼称として、またはその代わりとして商標を使用すべきではないということである。商標とは別に製品の呼称を計画的に使用することによって、所有者は自己の標章が所定のカテゴリーに含まれる一つの製品を特定するものであることを公衆に対して明確に知らせるべきである。これはとくに、商標所有者がそのカテゴリーに一つしかないまったく新しい製品を最初に発明した場合に重要である。 FRIGIDAIRE(冷蔵庫)、CELLOPHANE(セロハン)およびLINOLEUM(リノリウム)といった商標は、それぞれのカテゴリーにおける唯一の製品であったうえに、商標所有者がそのカテゴリーに別の名称を与えなかったため、総称的用語になってしまった。可溶性コーヒーとも呼ばれるインスタントコーヒーが1938年に発明されたとき、これを発明した会社が市場に出した最初の製品は、NESCAFÉ(ネスカフェ)と呼ばれた。しかし、この会社は当初からそのラベルに「インスタントコーヒー」または「可溶性コーヒー」という製品の呼称を計画的に使用していた。
2.386 二つ目の重要なルールは、商標は常に名詞としてではなく、純粋な形容詞として使用すべきである、つまり商標は冠詞を付けて使用すべきではなく、所有格の"s"および複数形は避けるべきであるということだ。"NESCAFÉ's flavor(ネスカフェの風味)"という言い方は間違っており、さらに"three varieties of NESCAFÉ(3種類のネスカフェ)"の代わりに"three NESCAFÉs(三つのネスカフェ)"と言うのも正しくない。
2.387 加えて、常に商標を強調する、すなわち商標を周囲より目立つようにすることが望ましい。
2.388 最後に、商標表示により商標であることを明確にすべきである。商標表示を規定している法律はごくわずかしかなく、また商品への商標表示の使用を強制することはパリ条約の第5D条によって禁じられている。米国の商標法は、長い表記(「米国特許商標庁に登録済み」など)の代わりに、丸で囲んだR、すなわち® などの簡潔な記号の使用を認めている。この記号は年月を経て世界中に浸透し、登録された商標を表わす一般に承認された記号となっている。その標章の侵害行為に関与すべきではないという競業者への警告として、登録商標にこの記号を使用することが推奨されている。
2.389 しかし、上記のルールを遵守するだけでは不十分である。商標所有者はさらに、自己の標章を第三者および公衆が濫用しないようにしなければならない。とりわけ辞書、公報、定期刊行物などにおいて製品の呼称として、またはその代わりとして商標を使用しないことが重要である。
2.390 商標の登録出願は、ほとんどの国において特許出願を処理する所管庁と同じ行政所管庁へ提出される。この官庁は通常、「知的財産庁」または「特許商標庁」もしくは「商標庁」と呼ばれる。
2.391 大半の国は出願書式を定めており、かかる書式の使用を義務づけている国もある。出願書式には出願人の名前および住所を記載しなければならない。外国人はその国における書類送達住所を設定するか、出願人が署名した委任状を保有する代理人を立てなければならない。商標法条約(TLT)はその第3条において、締約国の商標庁が商標登録のために要求できる情報の網羅的リストを規定すると共に、不要であり特に煩雑とみなされる認証または公証といった特定の形式的手続きを明確に禁じている。TLTはさらに、すべての関連情報が含まれている、締約国の所管庁が受理しなければならない模範国際書式を定めている。
2.392 出願書式またはその付属書類において、登録を受けようとする標識が提示されなければならない。彩色された標識の登録が意図される場合、かかる色彩の権利が請求されなければならず、さらに彩色された見本または色彩の説明を提出しなければならない。
2.393 立体標識の登録を受けようとする場合、立体的形状による当該標識の保護を請求する必要がある。さらに、かかる標識は二重の目的で複製可能な方法により図形的に表示されなければならない、つまり(登録簿が作成される形式とは無関係に、すなわちその標章が帳簿に記載されるか、カード索引により編集されるか、またはコンピュータ・システムに統合されるかどうかにかかわらず)標章が記録可能なものでなければならない。先の権利の所有者がその商標出願に気づくことができなければならず、これは通常、商標公報による公開によって保証される。
2.394 出願人はさらに、標識の登録対象となる指定商品をリストアップしなければならない。ほとんどの商標法は、登録を目的とした商品分類を規定している。分類のクラスごとに別個の出願を提出しなければならない国もあれば、複数のクラスに対して一つの出願を提出すればよい国もある。
2.395 国際貿易に関する重要な条約として、標章の登録のための商品およびサービスの国際分類に関するニース協定があり、これにより商標登録を目的とした商品およびサービスの国際分類が定められている。本書の裏表紙の折り返しに、ニース協定の締約国が示されている。
2.396 最後に、商標の登録には単一または複数の料金の納付が必要である。各国は、単一の包括的な料金または複数の料金(出願料、分類指定料、審査料、登録料など)を規定することができる。どちらのシステムにも有利な点と不利な点がある。単一の料金を請求する方が簡単であり、費用効率も高い。その反面、登録手続き中に(先の権利の所有者による異議申立、または登録官による克服不可能な拒絶などのために)出願の全部または一部を取り下げることになった出願人には不公平な結果が生じるだろう。このような場合、納付された料金の一部だけでも払い戻しが規定されるべきである。
2.397 各国は基本的に、方式要件が満たされている場合にかぎり、商標登録出願を受理する。
2.398 ほとんどの国は、公衆および競業者の双方のために商標出願の実体審査を行う。
2.399 2種類の拒絶理由が明確に区別されなければならない。
2.400 商標は、絶対的かつ客観的な拒絶理由について、すなわち十分な識別力があるか、記述的ではないか、倫理に反しないかなどについて審査される。このような審査は、消費者保護のためにきわめて望ましいだけでなく、いかなる者も簡単な行政手続きをとおして記述的または総称的用語を独占できないことは、競業者にとっても、さらに取引全般にとっても重要である。
2.401 多くの国の法律は、相対的な拒絶理由に関する審査、すなわち申請された権利が、すでに同一/類似商品に対して申請または許可されている先の権利と同一または類似かどうかに関する審査も規定している。このような審査は、職権によって、さらに/または異議申立手続きにもとづいて行われる。
2.402 大まかに分けると、国際的に3種類の代表的アプローチが採用されている。
2.403 英国のシステムは、絶対的および相対的な拒絶理由に関して、さらに異議申立手続きに関して、所管庁による審査を規定している。このシステムは、ヨーロッパではポルトガル、スペインおよび北ヨーロッパ諸国においても適用されている。
2.404 二つ目のアプローチでは、所管庁は絶対的拒絶理由に関する審査しか行わず、法律は異議申立手続きを規定しておらず、後続の標識の登録または使用に対する取消しまたは侵害訴訟の提起は先の権利の所有者に委ねられている。このシステムはフランスおよびスイスの旧商標法において採用されていたが、両国とも新しい商標法に異議申立手続きを導入した。
2.405 三つ目はドイツのシステムで、所管庁による絶対的拒絶理由に関する審査と共に、行政上の異議申立手続きを規定しており、先の権利の所有者は比較的費用の安い簡略化された手続きにより侵害商標出願に異議を申し立てることができる。このシステムは、上記に述べた両極端のシステムを折衷したものであり、欧州共同体商標制度に反映されている現在の趨勢にしたがうものである。
2.406 産業界全体は、時間の浪費が少なく柔軟性も高い最後のシステムを望んでいる。世界各国の登録簿に多数の商標が記録されていることを考えると、いずれにしても商標の登録を申請する前に、さらにいえば商標の使用を開始する前に、先の権利に関する調査を行う方が望ましい。大半の出願人がこういった調査を定期的に行う一方で、企業は少なくとも重要性の高い自己の登録商標に関しては、抵触するおそれのある類似標章の登録出願について継続的に情報を得るために、自己の商標代理人または国際的監視サービス機関をとおして常に監視を続けている。
2.407 登録官が先の権利に照らし商標出願を拒絶すべきかどうかについて審査する際に適用する基準は、異議申立手続きにおいて適用する基準、または侵害訴訟において裁判官が適用する基準と実質的に同じである。ただし、侵害訴訟の場合は、侵害の実際の状況が補足的役割を果たす。
2.408 登録標章の所有者に与えられる基本的権利の一つが、自己の標章または混同を生じる類似標章の他者による使用を阻止することであるため、商標登録から派生する権利に関して論じる第6章に示された商標類似性のすべての側面について検討することが望ましい。
2.409 出願の全体的または部分的な拒絶を下す前に、所管庁は出願人に意見を述べる機会を与えるべきである。
2.410 全体的または部分的な出願の拒絶査定に対し、審判請求が可能でなければならない。各国の法律制度に応じて、審判請求は登録官、行政審判部または裁判所に対して提出される。
2.411 出願が登録される場合、所管庁は所有者に対して証明書を発行する。所有者の独占権は登録日から生じる。ただし、その優先権は登録出願日まで遡及すべきである。たしかに出願は通常、後続の権利に対する侵害訴訟を提起する根拠としては不十分ではあるが、異議申立手続きの根拠としては有効でなければならない。さらに重要なことは、登録出願日は後の訴訟事件において決定的論拠になるという点である。出願から登録までの期間はかなりまちまちであり、きわめて長い期間を要する場合もある。さまざまな理由により後願出願が先に登録される可能性もある(例えば、先願出願が審査官により拒絶され、審判において最終的に許可された場合など)。明らかに先願出願の所有者は、後願出願の所有者に対して優先権を有していなければならない。
2.412 さらに、最先出願の出願日から6か月以内に外国出願が提出される場合には、出願人はパリ条約の第4条にもとづき自国登録の優先権を主張することができる。
2.413 商標は開発の対象となる独占権を与えるものではないため、有効性を制限する必要がない。管理上の理由により、ほとんどの商標法において期限が設定されているが、かかる期限の満了時に登録を更新することが可能である。
2.414 このような存続期間を設定する理由の一つは、所管庁が更新料を請求できることであり、これは歓迎すべき収入源となる。さらに、期限を設定せずに商標を登録すると、すでに所有者が関心を失っている膨大な数の商標登録が残存することになる。使用されていない標章を登録簿から削除できるとしても、その手続きは利害関係者にとって費用と時間を必要とするうえに、必ずしも削除できるとはかぎらない。
2.415 したがって、更新と更新料の納付を義務づけることは、その商標の図形的外観が変更されていたり、すでに使用されなくなっている場合もあるため、商標所有者にとっては商標の登録更新を行う価値が残っているかどうかを検討する良い機会になる。こういった理由により、更新料をあまり低くすべきではなく、実際、最初の登録料より高くすべきであろう。とはいえ、法外な更新料も避けるべきである。いずれにせよ更新は、絶対的または相対的な拒絶理由に関する審査を改めて行うことなく、更新料の納付だけにもとづいて行われるべきである。当然のことながら、とりわけ所有者が更新料を節約するために希望するのであれば、最初の登録の指定商品リストを自発的に減縮できるようにすべきである。
2.416 登録簿に記載された出願、登録および更新、ならびに名称変更、住所変更および所有者の変更に関するすべての関連データが公報により公表されることは、先の権利の所有者および公衆にとって重要な意味をもつ。こういた公表により、先の権利の所有者は異議申立(法律に規定されている場合)または取消し訴訟などの必要な措置を講じることができる。出願および登録の公表には、出願人の名前および住所、標章の表示、分類制度にしたがいグループ分けされた指定商品、権利を請求する色彩、立体標章の場合にはその旨の表明、さらに他の標章の優先権が主張される場合(パリ条約の第4 条)にはその旨の表明など、すべての重要なデータが含まれるべきである。
2.417 さらに標章の登録簿は、公衆が閲覧できるようにすべきである。先の権利の所有者に対して適正に情報が提供されることを保証するために、最新の情報、すなわちデータが保存される媒体とは無関係に、登録だけでなく係属中の出願の内容についても記録されているすべてのデータを登録簿に含めることが不可欠である。
2.418 商標登録の取消しは、登録にもとづく権利の喪失につながるため、所有者にとっては重大な問題である。しかしながら、商標を登録簿から削除できるたくさんの理由が存在する。
2.419 管理上の理由により、商標が一定期間にかぎり登録されることはすでに述べた。所有者が自己の商標登録を更新せず、とりわけ更新料を納付しなかった場合、この不履行により商標は登録簿から削除される。登録局は通常、更新料の納付に一定の猶予期間を認めている(たいていは追徴金が課せられる)。
2.420 登録されている商品の一部についてのみ商標登録の更新が法律により許可される場合(登録簿から「無用の長物」を削除する手段として奨励される)、更新されないすべての商品に対して商標登録の部分的取消しが行われる。
2.421 登録所有者はいつでも標章が登録されている商品の全部または一部について自発的に登録を放棄することができる。したがって、登録所有者の要請により、所管庁は原則として当該標章を登録簿から全体的または部分的に削除する。
2.422 商標所有者が法律に定められた猶予期間中に自己の標章を使用しなかった場合、原則としてあらゆる利害関係者がその標章の取消しを請求することができる。所有者が不使用を正当化できない場合、登録の削除が裁判所により命じられる。所有者が登録商品の一部についてのみ使用を立証できる、または不使用を正当化できる場合、裁判所は部分的取消しを命じる。使用を立証できないすべての登録商品に対して、または少なくとも登録所有者が使用していた指定商品と類似していないすべての商品に対して、部分的取消しが適用される。
2.423 とはいっても、使用された商品、場合によっては登録標章が使用された一つの製品だけに登録所有者の権利が厳密に限定されるわけではない。使用を立証できる一つの製品を除くすべての商品について登録が取り消されたとしても、その所有者は依然として、自己の商標が登録され使用されている製品と同一または類似のすべての商品について、自己の登録商標の独占的権利を守り、競業者による同一または混同を生じるほど類似の商標の登録および使用を阻止することができる。
2.424 登録されるべきではなかった標識が商標に含まれている場合、利害関係者の請求により裁判所から無効を宣言される可能性がある。一部の商標法には、同様の職権による手続きを規定しているものもある。無効宣言の結果として、その商標は登録簿から削除される。
2.425 無効理由が登録商品の一部に関してのみ存在する場合、登録はかかる商品についてのみ削除される。
2.426 通常、その商標の登録時にすでに無効理由が存在していた場合にかぎり、登録簿からの削除が命じられる。さらに、識別力の欠如のためにその商標を登録すべきではなかったとしても、それまでに使用によって識別力を獲得しているのであれば、取消しは排除される。
2.427 ただし、このような登録後に獲得された識別力を根拠として、総称的用語または誤認を生じる用語を含む商標の登録簿からの削除を回避することはできない。とはいえ、当初は商標登録の障害であった誤認を生じる意味がそれまでに失われてしまったという例外的事例も存在しうる。
2.428 登録対象の商品またはサービスの一部について標章が一般名称化するのを登録所有者が誘発または黙認した場合、当該標章は登録簿から削除される可能性がある。これについては、第2.382項の「商標の適正使用」に説明されている。
2.429 登録所有者は、その商標を使用する独占的権利を有する。商標権の特定の主題に関するこの簡潔な定義には、二つの側面がある。すなわち、当該商標を使用する権利と、他者による当該商標の使用を阻止する権利である。
2.430 商標所有者に帰属するこの明確な使用権は、ほとんどの商標法において認められている。たしかに使用の義務を負わせる一方で、このような明確な使用権を与えなければ矛盾を生じるだろう。もちろんこの使用権は、法律により与えられる他のあらゆる権利がそうであるように、他の法律および他の権利の影響を受ける。商標法にもとづいて許される行為が、競争法にもとづき、または一般法令により禁じられる可能性もある。
2.431 使用権とは何を意味するのだろうか? 第一に、所有者が当該標章を商品、容器、パッケージ、ラベルなどに貼付する、または登録対象の商品に関して他のあらゆる方法で当該標章を使用する権利を意味する。
2.432 さらに、当該商標を付けた商品を市場に売り出す権利も意味している。
2.433 商標を使用する権利から派生する、これら二つの権利を区別することが重要である。
2.434 商標所有者が自己の標章を付けた製品を市場に売り出した後、その所有者は取引の過程における当該製品の再販売に異議を唱えることはできない。これは、いわゆる商標権の消尽原則の根幹である。一部の国は、商標所有者により、またはその同意を得た第三者により外国で取引された製品の並行輸入に異議を唱えることを認めていない。一方、権利の属地性原則を適用して、かかる並行輸入に異議を唱えることを認めている国もある。さらに、輸入商品の特徴または品質に関して消費者が誤解するおそれがあるかどうかに応じて、商標所有者が並行輸入に異議を唱えることができるかどうかを判断する国もある。
2.435 最初に外国で取引された商品の並行輸入という上記の側面とは別に、商標権の消尽原則は明らかに国内においても適用される。ただし、その商標を付けた製品を市場に最初に売り出す権利だけに消尽原則が適用される。商品およびそのパッケージ、容器、ラベルなどに商標を貼付する所有者の独占的権利は、依然として存在する。したがって、所有者は、自己の標章を付けた商品の再包装、商品に貼付された自己の標章の破損、または自己の標章を付けた製品を改変した後の販売など、所有者の独占的権利を侵害する行為に異議を唱えることができる。製品を改変し、改変した製品に同一の標章を付けて販売すれば、商品に当該標章を貼付する場合と同じ結果をもたらす。つまり、真正な製品が商標所有者により所有者の標章を付けて取引されたという印象を消費者に与える。そうでない場合、商標所有者はこれを阻止する権利を有する。
2.436 最後に、商標の使用権に含まれる一連の権利のうち三つ目の権利は、商標所有者が広告、業務書類、文書などに自己の標章を使用する権利である。
2.437 標章所有者の商品と他者の商品を区別する標章の基本機能に照らし、消費者および一般大衆が誤認を生じないようにするには、所有者は混同を生じるほど類似の標章の使用に異議を唱えることができなければならないという結論になる。これは、登録により商標所有者に与えられる独占的権利の根幹である。商標所有者は、保護されている商品に対して自己の商標を第三者が使用すること、かかる商品に当該標章を貼付すること、かかる商品に関連して当該標章を使用すること、さらにかかる商品に当該標章を付けて販売を申し込むこと、または広告、業務書類その他の文書に当該標章を使用することに対して、異議を唱えることができなければならない。さらに、混同が生じないように消費者を守るため、類似商品に対する類似商標の使用によって消費者が混同するおそれがある場合には、かかる使用も保護範囲に含まれるのが一般的である。
2.438 ただし、商標所有者は、自己の商標が登録されている商品または類似商品に対する自己の商標または類似標章の使用について、無条件に異議を唱えることができない点に注意すべきである。所有者の商標は、登録時に指定された商品に対して保護されなければならない。このような保護は、たいていは法律により定められている使用者の猶予期間中、すべての登録商品に対して自動的に効力をおよぼす。かかる猶予期間が満了した場合、保護範囲は当該標章が実際に使用されている商品およびその類似商品に減縮されなければならない。商標の登録対象であったが使用されていないあらゆる商品は、もはや独占的商標権を主張する有効な根拠とみなされるべきではない。その国の手続きシステムによっては、商標所有者が、標章の登録対象であったが使用されていない商品について正式な権利を主張できる場合もあるが、不使用を理由とする商標の部分的取消しにつながる反撃を受けるだろう。
2.439 商標所有者の独占的権利は、侵害訴訟をとおして行使することができる。同一または類似商品に対する同一または類似標識の使用のために、公衆に誤認を生じるリスクまたは可能性がある場合には、その商標は侵害されている。この分析は仮説にもとづくものではなく、市場における侵害の実状にもとづいて検討されなければならない。
2.440 多くの法律が侵害訴訟を規定すると共に、混同を生じるほど類似の商標登録出願に対して行政上の異議申立手続きを認めている。この場合、商標が登録された場合に出願人が実行可能なあらゆる使用に起因する混同のリスクを考慮に入れなければならないため、分析の範囲はかなり広くなる。この分析は、第三者の先の権利に関する審査において所管庁が行う分析と実質的に同じである。
2.441 商標に識別力があるかどうかという問題と共に、商標が先の権利と混同を生じるほど類似しているかどうかという問題も、実際の商標保護にとって不可欠な要素である。
2.442 純粋に管理上の目的で設定された特定の分類に属する商品に対して、商標が登録される。したがって、商品の分類は、類似性の問題に関して決定的な論拠とはなり得ない。まったく異なる商品が同じクラスに記載されている場合もあれば(例えば、コンピュータ、メガネ、消火器および電話は第9類に記載されている)、明らかに類似の商品が別個のクラスに記載されている場合もある(接着剤は第1類、第3類、第5類および第16 類に該当する)。
2.443 商品が類似しているかどうかの分析は、同一の標章が使用されているという想定にもとづいて行われる。商品がまったく異なっていれば、同一の標章でさえ商品の出所に関して混同を生じるおそれはないだろう。原則として、同一の標章を付けて販売目的で提供された場合に、一般消費者がそれらの商品を同一の供給元のものであると確信する可能性があれば、これらの商品は類似している。商品の性質、商品が使用される目的、および商品が売買される取引経路を含む、特定の事例のすべての状況、とりわけ商品の通常の出所および通常の販売場所が考慮されなければならない。
2.444 もう一つの側面が、商品の性質および組成である。それぞれの商品がほとんど同じ物質で作られている場合は、たとえ異なる目的に使用されるとしても、類似であると裁定されるのが一般的である。ただし、原材料と、かかる原材料から製造された完成品とは、同じ企業によって市場取引されることが少ないため、通常は類似とはみなされない。
2.445 複数の商標が多少なりとも相互に類似している可能性がある。当然のことながら混同を生じるほど類似しているかどうかについて分析が行われる。商標と先の標章が類似商品に対して使用されており、双方の標章がきわめて似ているために商品の出所に関して消費者に誤認を生じる可能性があれば、これらの標章は混同を生じるほど類似している。消費者が混同するのであれば、その商標は識別機能を果たしていないため、消費者は希望する製品を買えない可能性がある。このような事態は、消費者だけでなく、売り損じた商標所有者にとっても不利益である。
2.446 混同を招こうとする侵害者側の意図や、実際の混同は、考慮に入れる必要はない。混同の可能性だけが判断基準となる。そうでなければこの類似性の分析は機能しない。
2.447 もちろん「消費者の(または公衆の)混同の可能性」という表現を解釈する必要がある。「消費者」は実在しておらず、公衆自体が混同を生じることもあり得ない。常に公衆の一部に混同が生じる、または生じる可能性がある。特定の事例において、考慮対象となるのは公衆のどの部分かについて、すなわち実際に当該商標を提示される、または当該商標に接触するのはどのような人たちかについて判断しなければならない。
2.448 実際問題として、混同を生じる類似性の広範な定義を取り扱うのはきわめて難しいため、特定の事例において二つの標章の類似性に照らし混同の可能性の有無を明確にする指針として、いくつかのルールが編み出されてきた。
2.449 最も重要な点として、消費者は双方の商標を並べて比較するのではないということが挙げられる。すなわち、たいていの消費者は、多少なりとも正確に認識および記憶している標章を付けた製品を目にすることなく、店内で侵害標章に直面するのである。消費者は実際に買おうとしていた真正な製品と、侵害標章を付けて提供されている製品とを間違える。これに関連して、平均的消費者は平均的な記憶力を有していること、さらに消費者の直面した商標が消費者の認識している商標と同一かどうかについて消費者が疑念を抱けば十分であるということが考慮されなければならない。
2.450 概して平均的消費者は、標章および標章を付けて提供されている製品をもっと時間をかけて慎重に検討すれば見分けられるかもしれない双方の標章の違いを一見しただけで見極めることはできないため、消費者が受ける第一印象を判断基準としなければならない。とりわけセルフサービスの店で提供される大量消費財についてはそうである。
2.451 さらに、経験が乏しく十分に教育されていない消費者や子どもの場合は、混同を生じる可能性が高くなる。技術的に高度で高価な機械、自動車または航空機の購入者は、間違いなくセルフサービスの店の消費者より注意深くなるだろう。したがって、こういった分野では、大量消費財に用いられれば容易に混同を生じるような、きわめて類似の商標が共存している。
2.452 混同を生じる類似性を分析する際に商品のカテゴリーがいかに影響をおよぼすかについて興味深いもう一つの例が、医薬品分野において見出される。処方薬は通常、専門教育を受けた薬剤師により(医師の処方にもとづいて)消費者に販売されるものであり、薬剤師が異なる適応症の薬剤に用いられている比較的類似のブランド名によって誤認を生じる可能性は低いため、類似性の分析はかなり寛容なものとなるだろう。一般市販薬の場合は、その逆となる。専門教育を受けていない消費者が間違った製品を購入した場合に起こりうる深刻な影響を考えると、類似性の分析はとくに厳格でなければならない。
2.453 商標の類似性を分析する際に重要な二つ目の点は、商標を全体として比較すべきであり、平均的消費者によって見過ごされる相違点を強調すべきではないが、混同に結びつくおそれのある共通要素についてはとくに重要視しなければならないということである。商標を各構成要素に分割するのではなく、全体として比較するというこの基本ルールにもかかわらず、標識の構造は重要な意味をもっている。共通の接頭辞は通常、共通の接尾辞より重要である。二つの標識が冒頭部分においてきわめて類似または同一であれば、末尾部分において類似の場合より混同を生じやすい。冒頭部分が共通または類似の長い言葉は、最初の文字が異なる短い言葉より混同を生じやすい。
2.454 三つ目の重要な点として、識別力の高い標識(造語の標章または恣意的に使用される標章)は、登録された商品に関して連想的意味合いを有する標章よりも混同されやすいことが挙げられる。
2.455 同じことが、識別力の高い構成部分(言語標章の一部または標章を構成する複数の言葉の一つ)を含む標章についても当てはまり、かかる識別力の高い要素は正確に、またはほぼ正確に侵害標章によって複製される。その反面、二つの標識の共通要素が記述的である場合、消費者の意識は標章の残りの部分に集中する傾向がある。
2.456 共通要素を伴う複数の標章を比較する場合には、別の所有者により登録および使用されている同じ共通要素を伴う他の商標が登録簿に存在しないかどうかについても確認しなければならない。このような商標が存在する場合、消費者は別の所有者による同じ共通要素の使用に慣れてしまっているため、当該標章の識別力のある要素としてこの共通要素に特別な注意を払わないだろう。
2.457 しかし、かかる共通要素(たいていは接頭辞または接尾辞)を伴うすべての標章が同一の所有者により(またはその同意を得たうえで)登録および使用されている場合は、状況が異なってくる。これは連鎖標章という特別なケースであり、消費者はこの一連の標章を同じ出所と結びつけて考えることを習慣づけられており、同じ要素を含む新しい商標についても同様に推定する傾向がある。ただし、共通要素を伴う連鎖商標を誰かが使用しているという事実だけでは、全体としてきわめて異なる標章の構成要素として競業者が同じ要素を使用することを阻止する十分な根拠にはならない。このような共通要素の使用が侵害とみなされるのは、消費者が実際に登録所有者の連鎖標章の共通要素を伴う別の標章を見て、その別の標章が登録所有者を出所とする商品を示すものであると誤認する場合にかぎられる。
2.458 四つ目の重要な点は、標識の文字表記、発音および意味における類似性からも混同が生じる可能性があるということ、さらにこれらのいずれか一つの範疇において類似性が認められれば、公衆に誤認を生じた場合に侵害を認定するうえで十分であるということである。
2.459 文字表記における類似性に関しては、商標の図形的表現が重要な役割を果たす。発音における類似性は重要である。なぜなら異なる文字表記の商標でも発音すると同じ場合があり、発音は口頭による情報伝達の一つとみなされるためである。また、きわめて異なる図形的表示の使用によって文字表記における類似性が回避されたとしても、二つの商標が発音によって比較されるとまったく変わらないこともある。
2.460 意味における類似性は、双方の商標によって同じ概念が伝えられる場合には混同を生じる可能性がある(マットレスに対するDREMLAND(夢の国)およびSLUMBERLAND(眠りの国))。逆に、まったく異なる意味によって、通常は混同を生じるほど類似とみなされる二つの標章が混同を生じない可能性もある。
2.461 上記のルールとは別個に、図形標章(図案)については、いくつか特殊な側面を考慮に入れなければならない。
2.462 それぞれ純粋に独創的な標章の場合、これら二つの標章によって伝えられる図形的印象が決め手となる。
2.463 複合標章の場合、発音における類似性が商標侵害を引き起こすため、たいていは言語部分の類似性で十分である。図形部分における類似性は、その図形部分が当該標章の識別力のある要素である場合にかぎり、混同を生じる可能性がある。さらに、複合標章の場合、二つの標章の言語部分における類似性は、これら標章の図形部分も類似であれば重要視される可能性が高い。言語部分の言葉が文字表記または発音の上では混同を生じないとしても、図形要素の類似性により、双方の標章が全体として混同を生じるほど類似している場合もある。
2.464 言葉により名称化できる図案は、特殊なケースである。星の図案は通常、「スター(星)」という言葉で呼ばれるため、言語標章STARと混同を生じるほど類似であると思われる。ライオンまたはタイガーの図案も、言語標章LIONおよびTIGERと混同を生じるほど類似とみなされるだろう。共に動物を中心とした二つの図案標章が比較される場合は、状況が異なってくる。概して判例法は、動物の図案そのものに独占権を付与することに消極的である。それゆえ、例えばタイガーまたはライオンまたは牛の図案(乳製品に対して登録された牛の図案はたくさん存在している)などの二つの図案は、混同を生じるほど十分に類似していなければならない。にもかかわらず図案に対応する言葉を商標として使用することを禁じるべきだろうか? さらに言語標章TIGERの所有者は実際に、図案標章におけるすべてのタイガーの図形的表示に対して異議を唱えることができるのだろうか? 保護の制限に結びつくあらゆる問題を避けるため、図案標章の所有者は、図案に示された動物の名称に対する商標保護も取得すべきである。
2.465 市場での混同は、実際に類似商品に使用されなければ生じない。しかし、混同を防止するため、商標登録システムにおいて、標章を使用する意思だけを根拠とする商標登録出願に対して商標所有者が異議を唱えることを認める必要がある。
2.466 このような防止を目的として、多くの商標法が、出願に対する異議申立手続きにおいて、さらに使用の有無にかかわらず、既存の登録により保護されるすべての商品と同一または類似の商品に対する類似標章の使用に関する侵害訴訟において、登録商標の所有者が異議を唱えることを認めている。したがって、全体的または部分的な不使用に気づいている被告は、不使用を理由に既存の商標登録の部分的または全体的取消しを求める無効訴訟を提起して反撃しなければならない。
2.467 最近の考え方では、5年間の猶予期間が満了した後、商標所有者が実際に自己の商標を使用している商品と同一/類似の商品に対する同一/類似の標章の登録出願または使用についてのみ、商標所有者が異議申立または訴訟により異議を唱えることを認めている。所有者が自己の商標を使用していない場合には、異議申立は却下され、登録された商品の一部に関してのみ自己の商標を使用している場合には、使用されている商品だけが、混同を生じる類似性の分析において考慮される。異議申立手続きにおける使用の立証責任は、権利の所有者に課せられる。
2.468 また、多くの商標法において、商標侵害訴訟の被告が当該訴訟の根拠となる商標の不使用を主張することが認められており、所有者は自己の標章の使用を立証できる場合にかぎり自己が提起した侵害訴訟で勝訴することができる。
2.469 侵害を受けた商標が使用されている場合、その使用の程度が、混同を生じる類似性の分析に影響をおよぼす可能性がある。侵害標章が使用されている商品の類似性がさほど高くない、または標章の類似性がさほど明確ではないとしても、大規模な使用によって標章の識別力が増大すれば、周知標章との間で混同を生じる可能性は高くなる。
2.470 評判の高い周知または有名標章は、一部の国では、商品の類似性の範囲を超えた保護を与えられている。このような広範な保護は、同一標章またはほぼ同一の標章が他の非類似商品に使用されることによって識別力または評判が損なわれる場合にかぎり、与えられるべきである。このように拡大された保護は、必ずしも可能なかぎりすべての商品を保護するわけではない。周知標章と同一の標章の使用が、特定のカテゴリーの商品に関しては不当な悪影響をおよぼすとしても、まったく類似していない商品に使用される場合には、周知標章の登録所有者の利益を損なわないこともありうる。標章の評判の程度、侵害者により標章が使用されている商品の種類、侵害者が商品を提供する方法など、特定の事例におけるすべての状況にもとづいて判断が下されなければならない。
2.471 もちろん評判だけでは十分とはいえない。広範な保護が正当化されるのは、正当な理由のない標識の使用によって、商標の識別性または評判が不正に利用される、または損なわれる場合にかぎられる。
2.472 1999年9月にWIPO一般総会およびパリ同盟総会は、「周知標章の保護規則に関する共同勧告」を採択した。この勧告は、特定の標章が周知であるかどうかを判断する際のガイダンスを示すと共に、周知標章の保護範囲を定めている(第5章、第5.731項および第5.732項を参照)。
2.473 所有者の商標使用権が他の権利によって制限される場合があるのと同様に、第三者による標章の使用を阻止する所有者の権利も、他者の合法的利益によって制限される場合がある。模範法はその第19条において、「標章の登録は、第三者が自己の名前、住所、ペンネーム、地理的名称、または自己の商品およびサービスの種類、品質、量、目的、価値、原産地、生産もしくは供給時期に関する正確な表示を善意で使用することを妨げる権利をその登録所有者に与えるものではない。ただし、かかる第三者の使用は、識別または情報提供の目的だけに限定され、商品またはサービスの出所に関して公衆に誤認を生じるものではないことを前提とする」と規定している。同様の規定が多くの商標法に盛り込まれている。
2.474 さらに商標所有者は、競業者ではない第三者が商標概論もしくは辞書における当該標章の記載といった行為により当該標章に言及すること、または新聞記事、書籍その他の刊行物において当該標章を使用することを妨げてはならない。
2.475 侵害訴訟で勝訴すると、混同を生じる類似標章の使用が禁止される。侵害標章が登録されている場合には、登録の取消しが命じられる。
2.476 さらに商標所有者は原則として、損害賠償を請求することもできる。ただし、商標侵害事件において損害賠償額を立証するのは難しいため、この救済は実際にはあまり重要ではない。
2.477 当然のことながら、偽造の場合は状況が異なってくる。偽造の場合について以下に論じていこう。
2.478 商標海賊行為とは、その国において登録されていない、または不使用のため無効になった著名な外国商標の登録または使用を意味する。
2.479 パリ条約はその第6条の2において、周知商標はその国において登録されていない場合でも保護されなければならないと規定している。ただし、この第6条の2は、同一または類似の商品に限定されている。周知商標が海賊行為者によってまったく異なる商品やサービスに用いられることも珍しくない。さらに、海賊行為が発見された国においてその商標が周知であることを裁判所が要求するために、その商標がかなり多くの他の国々で国際的に周知であることを真正な商標所有者が立証できる場合でさえ、保護が否認されることがある。それゆえ、商標海賊行為を防止する保護の強化が必要である。1999年9月にWIPO一般総会およびパリ同盟総会により採択された「周知標章の保護規則に関する共同勧告」は、この点に関していくつかの指針を定めている。
2.480 偽造とはまず第一に、製品の模倣である。偽造品は一般的な意味で同一というだけではない。偽造は、真正な製造業者または取引業者を出所とする真正な製品(例えば、LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)バッグ)であるという印象も与える。
2.481 もちろんこのような偽造品の提供は、真正な製品が消費者に認知されていなければ意味がない。したがって、偽造品の多くは高級品のカテゴリーに属し、周知商標を付けている。しかし実のところ、これは偶然の一致にすぎない。偽造品が大量消費財であったり、商標を付けて販売されてはいないが著作権または意匠保護といった他の知的財産権によって保護されている商品の場合もある。また、自動車や航空機に使用されるブレーキまたは農業関係者の間では有名な殺虫剤など、専門的消費者の小規模なグループだけに認知されているものもある。こういった実例は同時に、偽造品の使用がいかに危険であるかを示している。かつて偽造品の殺虫剤を使用したために、アフリカの相当部分において1年間の収穫が損なわれたことがある。
2.482 広く知られている偽造品の代表的な例としては、偽造LOUIS VUITTONバッグ、偽造ROLEX、CARTIERその他の高級腕時計、偽造PUMAおよびREEBOKスポーツシューズ、偽造LACOSTEスポーツシャツなどが挙げられる。偽造品の世界売上高が、真正な製品の売上高を上回ることもある。これは偽造が世界的に重大な経済的現象であり、世界貿易の驚異的割合を占めていることを物語っている。実際、偽造は窃盗に匹敵する経済犯罪であると認識することが重要である。偽造者は消費者を欺いているだけでなく、真正な製造業者の評判を傷つけると共に、国家に対する税金および他の関税の支払いも逃れている。
2.483 常にそうであるとはかぎらないが、たいていの偽造品は商標を付けている。このことは商標侵害として偽造を訴訟に持ち込めるという利点がある。概して商標侵害は、関与する他の知的財産権の侵害について争うより容易である。しかし、偽造は経済的に深刻かつ重大な問題であるため、商標法に定められた救済は有効な抑止力としては不十分なことが多い。これは法執行の三つの領域に関係する問題であり、偽造を取り締まるにはこれら三つの領域すべてが不可欠である。
2.484 法律は、禁固刑を含めた厳しい罰則を規定しなければならない。ほとんどの商標法は、商標侵害に対する罰則を規定しているが、その多くはかなり前に制定されたものであるため、もはや現実的ではない。偽造者は罰金を支払い、禁固刑が命じられることは稀である。
2.485 迅速かつ広範な救済が必要である。偽造者は正規の事業上の住所では営業しておらず、提訴されても追跡が難しい。長期にわたる綿密な捜査の結果、ようやく偽造者が発見されることも少なくない。それゆえ、仮差止命令のような暫定的措置が緊急に必要とされている。英国におけるいわゆるアントン・ピラー命令(証拠隠滅を防ぐために裁判所が容疑者の家宅捜査を命じる、証拠回収のための民事捜索命令)は、きわめて有用な措置である。こういった暫定的措置により、偽造品を押収することができ、偽造品を所有していた者はその出所を真正な商標所有者に通知する義務を負う。
2.486 偽造は国際貿易において生じる現象であるため、国境で商品を検査し、偽造品に貼付された商標の所有者の要請により偽造品を押収する権限を税関当局に与える必要がある。
2.487 本節で論じられる事例は、通常の商標侵害と偽造の中間に位置づけられるものであり、偽造にきわめて近い場合もある。偽造の場合と同様に、競合品のラベルまたはパッケージが模造されるが、模造の場合には、真正なものであるという印象は生じない。真正な製品と模造品とを並べて比較すると--消費者にとってはこのように並べて比較することはめったにないが--双方を識別することができ、ほとんどの模造者は真正な製品の製造業者の後ろに隠れることはなく、自分の名前で取引している。模造者は犯罪者ではなく、むしろ不正な競争手段を用いる競業者といえる。
2.488 模造者は自己の製品に対して、自己の費用により独自のイメージでラベルやパッケージを作成する代わりに、市場に混同を生じるほど競合品とそっくりの外観を自己の製品に与えることにより、競合品の評判を利用しようとする。
2.489 模造者は、競業者の商標と混同を生じるほど類似の商標(製品名という意味で)を使用することが多い。このような場合、模造者は商標侵害を犯している。
2.490 多くの場合、模造者によって使用される言語標章はある程度、ただし混同を生じない程度に、競業者が使用する言語標章と類似しているが、まったく異なることさえある。このような場合、市場において混同が生じる唯一または主要な原因は、競業者のラベルまたはパッケージと同一またはきわめて類似の色彩および図形要素の使用である。ラベルやパッケージが商標として登録されることはめったにないため、ほとんどの商標法はこういった事例に適用する基準を定めていない。それゆえ、不正競争のルールにもとづいて模造に対処しなければならない。
2.491 原則として、自己の商品を競業者の商品として詐称通用させることは違法(不正競争)であると一般に認識されている。製品のラベルまたはパッケージが競業者の製品のものと混同を生じるほど類似していれば、この不正競争の要件は基本的に満たされる。
2.492 商標の所有者は、さまざまな理由によりさまざまな方法で変更することが可能である。
2.493 自然人の死亡の場合、商標権をその相続人へ譲渡することができる。こういった所有者の変更は、商標法により商標の個人所有が認められている場合にかぎり可能である。同様に、破産の場合には、新しいオーナーに商標を譲渡することができる。また、二つの会社が合併する場合も、所有者を自動的に変更することができる。ただし、株式の取得により会社が買収される場合、または知的財産権を含む会社の特定の資産が買収される場合には、自動的な変更は行われない。
2.494 所有者を変更する最も一般的な方法は、譲渡である。譲渡はたいてい、常にそうとはかぎらないものの、購入契約の一部であり、これにより一定の金額の支払いと引き換えに商標が売却される。
2.495 一部の国の法律は、標章に関する営業権を伴う場合にかぎり商標の譲渡を認めている。消費者はその商標を付けて販売される製品を見慣れているため、当該標章を使用している事業または事業の一部の移転を伴わない譲渡は、消費者に誤認を生じるという論理である。しかしながら、趨勢は明らかに商標の自由な譲渡を認める方向に向かっている。営業権を伴わずに譲渡される商標は、長年にわたり使用されていなかったものが多い。それとは別に、多くの企業は複雑な法的構造をしているため、一つの会社が別の会社に買収される場合、商標は新しい親会社へ移転されるのに、その商標を付けて販売されていた製品を製造する工場は買収された会社の財産として存続するということも十分に起こりうる。商標を所有する新しい親会社が、譲渡された商標を付けて販売される製品のこれまでと変わらない品質の維持を保証するかぎり、消費者に誤認が生じることはない。
2.496 したがって、商標の譲渡に当該商標に関する営業権を結びつける絶対的必要性はない。これは模範法の第21条に示された考え方であり、その(1)項は、当該標章を使用する事業の全部または一部の移転とは無関係に商標登録または出願の譲渡を認めているが、(2)項では、かかる譲渡の目的または結果が公衆に誤認を生じるおそれがある場合には、かかる譲渡は無効であると定めている。ただし、このような事例は実生活において、とりわけ商標登録全体が譲渡される場合には、きわめて稀であることを付け加えておきたい。
2.497 部分的譲渡はさらに問題をはらんでいる。この場合、公衆の混同を回避するために、一部の商標法は、譲渡される商品が先の所有者の下に残存する商品と類似していない場合にかぎり移転を認めている。これにより、二つの商標が最初から別個の所有者により登録されていた場合と同様に、消費者の混同は明確に回避される。
2.498 原則として、商標所有者の変更は登録されなくても効力を生じる。とくに外国人所有者が死亡または破産もしくは合併した場合はそうである。原則として、譲渡による自発的な所有者の変更でさえ、少なくとも当事者間で効力を生じるうえで登録する必要はない。にもかかわらず、ほとんどの商標法は以下の二つの理由により、所有者の変更登録を規定している。
2.499 ただし、この原則を無制限に適用することはできない。新しい所有者がすべての必要な正式手続きを完了している場合、すなわち所有者の変更登録に必要な書類を所管庁へ提出している場合、その新しい所有者は侵害に対して自己の商標を守るために訴訟を提起できなければならない。この登録手続きがきわめて冗長で煩雑な場合もあり、一部の法域では係属中の出願については譲渡の登録を許可しないところもある。このような法域では、先の所有者がすでに存在していない、または少なくとも自己の先の商標権の侵害に対して訴訟を起こす気がない場合は、新しい所有者が八方塞の状態に陥ることも珍しくない。
2.500 概して商標法は、公衆に誤認を生じるおそれがあると登録官が判断する場合には、登録官が譲渡の登録を拒否することを規定している。
2.501 譲渡によって実際に消費者に誤認が生じる場合、その譲渡はたいてい自動的に無効となるため、有効に登録されることはない。ただし、公衆の混同のリスクしか存在しないと判断する場合には、登録官はその譲渡の登録を拒否すべきではない。このような場合は明らかに、登録官がファイルから判断できる範囲を超えた実際の状況にもとづいて、例えば新しい所有者がその商標を使用する方法や、実際に消費者に誤認が生じるかどうかといった、消費者の誤認がその譲渡の内因的結果ではないことを示す実際の状況にもとづいて判断が下される。
2.502 複数の商標を所有する登録所有者が、商標の類似性の分析にしたがえば混同を生じるほど類似とみなされる可能性のある商標の一部を譲渡する状況は、部分的移転とは異なる。
2.503 このような場合、消費者の誤認はかかる譲渡の内因的結果ではない。消費者に誤認が生じるかどうかは、新しい所有者が譲渡された商標を使用する方法だけでなく、先の所有者がまだ所有している商標を使用する方法によっても変わる。譲渡に関わる双方の当事者は、両者の利益のために、関与する消費者に混同を生じない方法で両者の商標を使用しなければならないという規定を譲渡契約に盛り込むのが一般的である。この場合は、譲渡の登録を拒否する権限を登録官に与えるべきではなく、この問題は裁判所の裁量に委ねるべきである。
2.504 内因的結果として公衆に誤認を生じるという理由または商標法以外の他の法的理由により商標譲渡が無効であるにもかかわらず、すでに登録されている場合、かかる登録がどのような結果を招くかという問題が持ち上がる。
2.505 譲渡の無効が、商標権そのものの無効に結びつくわけではない。しかし、かかる商標権は譲渡人である先の所有者の下に残存する。つまり、新しく登録された所有者による商標の使用は実際の使用とはみなされず、商標の使用猶予期間が満了した後に、当該商標が取り消されるおそれがある。もちろん譲渡人である当該商標の先の登録所有者は所有者として存続しており、当該商標を使用することはできるものの、両当事者はたいてい譲渡の無効を認識していないため、譲渡人が当該商標を使用する可能性は低い。
2.506 法的保障のため、譲渡は文書で証拠づけられるべきである。譲渡の登録申請も、譲渡人または譲受人により文書で行われなければならない。譲渡人が登録を申請する場合は、譲渡人またはその法定代理人が署名した簡単な申請書で十分とすべきである。一方、譲受人その他の新しい商標所有者が所有者変更登録を申請する場合は、申請書に裏づけ文書(譲渡人により署名された譲渡契約書、または所有者の変更を示す他の証拠)を添付する必要がある。ただし、この場合、認証、公証その他の証明は必要とされず、新しい商標所有者またはその法定代理人が所有者変更申請書に署名すれば十分とすべきである。商標法条約はその第11条において、商標庁が所有者の変更登録申請に関して要求できる正式手続きの網羅的リストを記載している。
2.507 商標所有者にとっては、事業を営んでいる国において第三者に現地での商標の使用を許諾するのは普通の慣行である。しかし、商標の使用を許諾するライセンスの重要性は、主として国際取引関係における当該商標の有用性にかかっている。実際、ライセンス供与は、現地の会社が外国企業の商標を使用する重要な手段である。こういったライセンス契約はさまざまな先進国のパートナー間ではきわめて一般的であり、途上国のパートナー間においても、さらに途上国のライセンサーと先進国のライセンシーとの間でさえ、ライセンス契約は存在している。
2.508 しかし、ライセンス契約が果たす最も重要な役割は、先進国のライセンサーと途上国のライセンシーとの関係にある。このような状況におけるライセンス契約は、単純な商標ライセンスではなく、特許、商標、ノウハウおよび他の知的財産権のライセンス供与に加え、ライセンシーへの技術支援の提供までも含めた包括的契約であることが多い。こういった契約は途上諸国の経済発展における重要なファクターであり、主な特徴として技術の移転、雇用の創出および現地の原材料の使用が挙げられる。また、技術移転に責任を負う省庁など現地当局が、契約の管理または承認について規定する現地の法律の特別条項にしたがいライセンス契約を監督していることも多い。
2.509 かかる包括的契約は、ライセンサーの商標の使用権を与える場合には、(上記の特別条項が適用される場合でも)ライセンシーの国の商標法に定められたライセンス関連規定を遵守しなければならない。多くの国の商標法に、商標ライセンス供与に関する規定が盛り込まれている。商標ライセンス供与の一般的な指針となる原則について、商標の外国人所有者や技術移転の側面とは切り離して、以下に論じていこう。
2.510 商標の出所表示機能を守るには、とりわけ商品の品質(ライセンサーにより設定される品質基準の遵守)および商品が市場取引される際の条件について、所有者がライセンシーによる当該標章の使用を管理すれば十分である。こういった管理が有効に行われていれば、商標の登録所有者が自ら当該標章を使用する必要はない。ライセンシーによる当該標章の使用は、商標保護のすべての目的上、所有者自身による使用とみなすことができる。これはとくに、当該商標が不使用の申立による攻撃を受けないこと、さらにライセンシー自身が当該標章に関して所有権を主張できないことを意味している。
2.511 基本的に商標保護制度は、商標のライセンス供与に関して正式な手続きを義務づけていない。この制度に付随する重要な点は、所有者がライセンシーを有効に管理するということだけである。この原則の重要性は広く認識されているが、ごく一部の商標法は商標のライセンス供与に関する条項において品質管理を規定している(例えば、米国およびスリランカの商標法)。たしかに契約書が商標登録簿に記録され、あらゆる種類の管理規定を盛り込んでいても、法律が管理不履行の法的影響を規定していなければ、契約書の存在はいかなる目的も果たさない。しかしながら、多くの商標法はライセンスの強制的登録を規定しており、ライセンサーがライセンシーに対して設定した条件を登録官が慎重に検討することも少なくない。
2.512 2000年9月にWIPO一般総会およびパリ同盟総会は、「商標ライセンスに関する共同勧告」を採択した(第 5章、第5.733項および第5.734項を参照)。この勧告は、ライセンスを登録するうえで所管庁が要求できる最大限の指示および要件のリスト(第2条(1)項)を規定すると共に、模範国際書式を定めている。さらにこの勧告は、ライセンスが登録されなくても、(i)当該ライセンスの主題である商標の有効性(第4条(1)項)、(ii)加盟国の法律にもとづいてライセンシーに与えられる、所有者により提起された侵害訴訟に参加する権利(第4条(2)(a)項)、および(iii)第三者による標章の使用が使用要件の文脈において有効な商標所有者による使用とみなされるかどうかという問題(第5条)は影響を受けるべきではないと定めることにより、登録要件の不遵守の影響を当該ライセンス契約だけに限定しようとしている。
2.513 商標ライセンス供与に関する特殊な手続きとして、英国における登録使用者契約の制度が挙げられる。この登録使用者契約が記録されると、登録使用者による商標の使用は商標所有者による使用とみなされる。ただしこれは、登録が義務づけられている商業関係を規定する当事者間の実際のライセンス契約ではない。英国の法律は、一種の簡略書式として登録使用者契約を規定しており、登録官が登録使用者契約を承認する前に特定の条件が満たされることを条件としている。登録簿は誰でも閲覧できるため、ライセンス契約の当事者は通常、ライセンス契約ではなくこの簡略書式を登録する。
2.514 ライセンシーは通常、ライセンスの譲渡やサブライセンスの供与を許されないが、もちろんこういった権利を契約により明示的に付与することができる。
2.515 ライセンスは独占的でも非独占的でもよい。
2.516 独占的ライセンスの場合、商標所有者は同じ領域における他の者に当該標章の使用を許諾することは許されず、また自ら当該標章を使用することもできない。
2.517 非独占的ライセンスの場合、当然のことながら所有者は自ら当該標章を使用でき、さらに他の者へ使用を許諾することもできる。複合ライセンスの場合、一般消費者のためにきわめて厳密な品質管理が必要である。
2.518 独占的ライセンスも非独占的ライセンスも、国の領域全体またはその一部に関して締結することができ、さらに当該商標が登録されている商品の全部または一部に適用することができる。譲渡の場合とは異なり、公衆の混同のリスクが考慮されることはないが、商標所有者が有効な品質管理を行うことを条件とする。
2.519 企業は、自己の商品やサービスを競業者のものと区別するために単一、複数または多数の異なる商標を所有し使用することができる。ただし、企業は自らを他の企業と区別することも必要である。そのために企業は商号を採用する。
2.520 商号は、識別機能を果たすという点で商標やサービスマークと共通している。しかし、商標やサービスマークとは異なり、商号は特定の企業と他の企業を区別するものであって、その企業が取引または提供する商品やサービスとはまったく無関係である。
2.521 ほとんどの国は、会社名の登録簿への登録を許可および承認するうえで商号が満たすべき特定の要件を規定しており、かかる会社名の登録簿は国家レベルで存在する場合もあるが、実際は地域または地方レベルで維持されていることが多い。その企業の種類に言及しなければならず(例えば、有限責任会社を示す略語Ltdにより)、たいていは事業目的を提示しなければならない。概して商号は非常に長いため、その企業の表示として日常的業務に使用するにはあまり実用的とはいえない。
2.522 それゆえ、企業は正式に登録された正規の商号の他に、簡潔な営業名または他の種類の企業識別名を使用する傾向がある。
2.523 通常、商号の登録および後の使用の条件として、識別力は要求されない。
2.524 識別力がある商号または営業名は、登録されているかどうかにかかわらず使用により保護される。識別力がない場合、使用により識別力を獲得した後で保護を受けることができる。この文脈における識別力とは、一般消費者がその名称を特定の取引の出所表示として認識することを意味する。
2.525 さらに商号または営業名は、商標としての登録によって保護を受けることもできる。通常、正式な企業名および簡潔な営業名の双方を登録することができる。こういった登録を守るには、当然のことながら商号を商標として実際に使用する必要がある。この使用要件は、しばしばラベル表記規則によって義務づけられているように製品のラベルやパッケージの一部に小さな字体で正規の住所と一緒に製造会社または取引会社を表示しても、遵守したことにはならない。それゆえ、実際は簡潔な営業名を商標として登録する方が合理的かつ一般的であり、かかる営業名が同時にその会社の重要な商標(いわゆる「会社マーク」など)でもある場合には、とくにそうである。
2.526 企業が商号および営業名を商標として登録できるのと同様に、企業の識別だけでなく、その企業が提供する商品またはサービスの識別にも商号および営業名を使用することが可能であり、またそうしている場合が多い。さらに、先述したように、商標として登録されているのであれば、使用義務に関連して、かかる商号および営業名を使用する必要もある。
2.527 したがって、商号、営業名および商標の間で紛争が生じるのは避けられない。商号または営業名が商標として(登録されているかどうかにかかわらず)使用されている場合には、該当する標識を付けて提供されている商品またはサービスの出所に関して混同が生じないように消費者を優先して保護するという原則にしたがって、類似商標とのあらゆる紛争が裁定される。
2.528 にもかかわらず、企業が営業名または商号をそれ自体として使用している、つまり自己が提供する商品やサービスの商標として使用していない場合であっても、その営業名または商号の使用によって、その企業が自己の名前で提供している商品やサービスの出所に関して混同を生じる可能性がある場合には、一般に先の商標の侵害が認められている。逆に、商標、サービスマークまたは団体標章の使用が同様の方法により先の(登録済みもしくは未登録の)営業名または商号を侵害することも起こりうる。
2.529 「フランチャイジング」がほとんどの消費者にとって聞き慣れない用語だとしても、フランチャイジングの結果はよく知られている。フランチャイジングの結果として最も認知度の高いものは、ファーストフード・レストラン、ホテルまたは化粧品の小売店であろう。しかし、フランチャイジングには、貸衣装、自動車整備、納税申告書または所得税申告書の作成、芝生の管理、託児所および歯科医など、さまざまな事業が含まれる。要するに、商品の製造、加工および/もしくは販売またはサービスの提供に関するシステムを開発可能なあらゆる経済活動に適用することができる。この「システム」こそ、フランチャイジングの主題である。
2.530 先進市場経済国では、フランチャイジングによる商品およびサービスの販売が1950年代以降、目覚しい成長を遂げており、一部の国ではすべての小売販売の大部分を占めるほどである。
2.531 こういったフランチャイジングの急速な成長および発展をもたらした要因は数多く存在するが、おそらく最も基本的要因は、フランチャイジングによって企業であるフランチャイザーの知識の深さおよび経済力と、実業家であるフランチャイジーの起業家精神が結びつけられることであろう。
2.532 フランチャイズに関する行政規則が存在するかどうかにかかわらず、すべての商業活動において濫用の可能性から身を守る最良の防護策は、フランチャイジングとは何か、さらにフランチャイジングがどのように機能するかに関してフランチャイジー志望者とその専門アドバイザーが知識を身につけておくである。したがって、本節の目的は、フランチャイズ協定の構造および内容に関して概観すると共に、とりわけフランチャイジー志望者がフランチャイジングについて理解し、自己の利益を有効に守れるように手助けをすることにより、フランチャイジングが経済において重要な役割を果たす道づくりをすることである。ただし、フランチャイジングに関する専門家のアドバイスに代わるものとして本節を捉えるべきではない。
2.533 フランチャイジングを分かりやすく解説するため、本節では一例として架空のフランチャイズ--VESPUCCIの名前で営業するイタリア料理のレストラン--を適宜に使用する。VESPUCCIは、フランチャイジーがレストランを運営する際に用いる標章(商品とサービスの双方に対する)および商号であって、このフランチャイズを提供する会社(フランチャイザー)はVespucci, Inc.と呼ばれる。
2.534 Vespucci, Inc.は、統一された方法で大量販売される自社の食品を調理および販売するシステムを開発した。このシステムには、VESPUCCIレストランを成功に導くさまざまなファクターとして、一貫した品質の製品をもたらす食品のレシピおよび調理法、レストランにおける好適な座席の配置、従業員のユニフォームのデザイン、建物および広告掲示板のデザイン、質の高い食糧の供給元、パッケージのデザイン、食品の調理に用いられる材料の在庫管理、ならびに経営および会計システムなどが含まれている。
2.535 Vespucci, Inc.は、自己のフランチャイジーが新しい事業を展開する際の援助として独自の知識および経験をフランチャイジーに分け与える。フランチャイザーの指導がなければ、現地のレストランオーナーは事業の失敗につながるような重大な誤りを犯すおそれがある。さらに、Vespucci, Inc.は、現地のフランチャイジーが現地のVESPUCCIレストランを運営する方法を監督および管理する権利を保有しており、VESPUCCI標章および商号の営業権が保持されるため、現地のレストランの価値、さらに言えばVESPUCCIレストランが運営されるシステム全体の価値は損なわれない。
2.536 Vespucci, Inc.は、現地のフランチャイジーからVespucci, Inc.への支払いという形で金銭的利益を受け取る。この支払いには、前渡し金または「前払い手数料」に加え、例えば当該フランチャイジーの総売上高の 1%といった何らかの継続的支払いを含めることができる。現物による支払いを想定することも可能である。さらに、契約の内容に応じてフランチャイジーは、特殊な香辛料、設備(オーブン、調理用カッティングマシンなど)のレンタル、事業に必要な消耗品その他の購入といった項目について、他のさまざまな支払いを要求される場合もある。
2.537 商取引はさまざまな形をとることができ、フランチャイズ協定もそのうちの一つにすぎない。フランチャイズ協定とは何かを理解するために、まずフランチャイジングとは異なる他の2種類の取引協定について、すなわち小売販売協定および標準ライセンス協定について説明する方がよいだろう。
2.538 小売販売協定は、契約法などの民事および商事法の伝統的原則に準拠している。製造業者または卸売業者は自己の製品を十分に高い価格で小売業者へ販売することによって利益を得る。
2.539 小売販売協定には、製品を製造および/または供給する第一当事者と、その製品を販売する第二当事者が関係している。この第二当事者は、製造業者の代理店であってもよく、また再販売のために商品を購入する独立小売商であってもよい。第二当事者が独立小売商であれば、商品の製造業者または卸売業者と「販売店」契約を締結することができる。販売店契約が独占的なものであれば、その契約に定められた領域(地方、地域または国全体など)における当該商品の販売を目的として製造業者または卸売業者がその販売店だけと取引することが保証される。このような独占販売店は通常、当該商品の広告および販売の目的上、製造業者または卸売業者との特別な関係を公表し、製造業者または卸売業者の標章および商号を使用する権限を与えられる。
2.540 独占販売店契約は存在するものの、たいていの販売店契約は非独占的なものである。この観点から見ると、フランチャイズ協定の方が魅力的かもしれない。
2.541 ごく簡単に言えば、標準ライセンス協定とは、特定の知的創作物(発明、意匠など)または識別力のある標識(標章、商号など)について他者による商業的利用または使用を阻止する権利の所有者(ライセンサー)が、一定の料金と引き換えに、所定の者(ライセンシー)に対してかかる権利を行使しないことに同意する協定であって、おそらくライセンサーがライセンシーによる商業的利用または使用を管理することが条件として加えられるだろう。標章または他の識別力のある標識に関するライセンス契約の場合、ライセンサーは通常、自己の標識を付けて販売される商品もしくは提供されるサービスが一定の品質である、さらに/または指定された特徴を有していることを保証するために必要な場合を除き、ライセンシーを管理することはない。
2.542 さまざまな定義づけが可能ではあるが、フランチャイジングとは、特定の事業を営むシステムを開発した者(フランチャイザー)が、対価と引き換えに、フランチャイザーの指示にしたがい当該システムを使用することを別の者(フランチャイジー)に許可する協定であると説明できる。この関係は、フランチャイザーにより設定され監視される基準および方法にしたがって、さらにフランチャイザーの継続的な補佐および支援を受けてフランチャイジーが運営する継続的な関係である。
2.543 したがって、フランチャイズ協定は、フランチャイザーがフランチャイジーに対して実施を許可または許諾するシステムに関するものである。このシステムは、フランチャイズ対象システム、または単に「システム」と呼ばれる。フランチャイズ対象システムとは、エンドユーザーへの商品の販売またはサービスの提供を目的として実施されるものであって、任意の数の標章、商号、工業意匠、発明および著作権保護対象の著作物に関する知的財産権に加え、関連するノウハウおよびトレードシークレットがすべて一括されたパッケージである。
2.544 フランチャイズ関係を特徴づける代表的なファクターとして、以下に示す特徴が挙げられる。
2.545 システムの使用ライセンス:合意された支払いと引き換えに、フランチャイジーはフランチャイズ対象システムの使用を許可される。フランチャイジーは事実上、自己の事業を営むためにフランチャイザーのシステムを使用するライセンスを与えられる。フランチャイズ加盟のレストランまたは店といった特定の場所でフランチャイズ対象システムが実施される場合、その場所は通常、「フランチャイズ・ユニット」と呼ばれる。
2.546 継続的な相互関係:フランチャイズ関係は継続的であり、一定期間にわたるフランチャイズ対象製品の多元的な販売(またはフランチャイズ対象サービスの提供)を含み、フランチャイザーはフランチャイジーがフランチャイズ・ユニットを設立し、維持し、さらに成長させていくうえで継続的に支援する。こういった支援には、フランチャイザーがフランチャイズ・ユニットの運営に関して新規または改良技術を開発した場合の関連情報の更新が含まれる。フランチャイジーとしては、フランチャイズ対象システムの使用料をフランチャイザーへ支払う、または継続的な管理サービスに対してフランチャイザーに補償する継続的義務を負う。
2.547 事業の運営方法を指示するフランチャイザーの権利:フランチャイジーは、フランチャイザーが定めるシステムの運営方法に関する指示にしたがうことに同意する。このような指示には、品質管理、当該システムの保護、地域的制約、運営上の詳細事項に加え、フランチャイズに関するフランチャイジーの行動規範となる他の一連の規定を含めることができる。
2.548 先述したように、典型的なフランチャイズ協定には顕著な三つの特徴がある。すなわち、統一システムの使用ライセンス、継続的な相互関係、および指示された運営方法の遵守である。これらの特徴を用いて、フランチャイズ協定と、小売販売協定および標準ライセンス協定とを比較することができる。実際問題として、フランチャイズ協定は、複数の契約形式の特徴を兼ね備えた「複合」形式をとることも可能である。さらに、フランチャイズ協定に加盟しようとする実業家の大半は、厳密な法律上の契約形式よりも、その契約にもとづく事業活動の側面を重視する。
2.549 フランチャイズ協定の中核は、フランチャイズ対象システムの使用を許諾するためにフランチャイザーからフランチャイジーへ付与されるライセンスである。かかるライセンスがなければ、フランチャイジーはフランチャイザーによって開発された方法で事業を運営することができない。一方、小売販売協定は、商品の販売だけに関するものであり、必ずしもライセンスの付与を必要としない。
2.550 この点に関し、フランチャイズ協定と標準ライセンス協定との違いはさほど明確ではない。フランチャイジングは知的財産権などを含むシステムの使用ライセンスであるため、フランチャイジングとは標準ライセンス協定を進化させた形式にすぎず、フランチャイズ協定は、商標など一つまたは複数の特定の知的財産権に関する単なるライセンス供与の枠を超えるものだといわれている。たしかに、フランチャイズ協定では、フランチャイジーは自ら製造することはなくても、他者の標章を付けた商品の販売またはサービスの提供以上のことを行う。フランチャイジングは、大きなシステムの一部として商品の製造および販売またはサービスの提供を行うことをフランチャイジーに許可するという点で、ライセンス供与の枠を超えている。
2.551 例えば、FLUME標章を付けたペンの製造および販売に関するDesk Gear, Inc.によるライセンス供与(架空の例)は、標準ライセンス契約とみなすことができる。しかし、Desk Gear, Inc.が自己のペンの販売に関して店舗のデザインおよびマーケティング技術を含むシステムを確立し、このFLUMEペンの販売システムの利用を他の者に許可するならば、それはフランチャイジングとなる。
2.552 小売販売関係では、第一当事者が商品を製造して、自己の利ざやを含めた価格で第二当事者へ商品を移転し、第二当事者はさらに高い価格でその商品を小売販売することにより利益を得る。典型的かつ単純なフランチャイズ関係では、フランチャイザーが各フランチャイジーにシステムの利用方法を説明し、その見返りに、例えば売上高の1%といったフランチャイジーの収益の一部を受け取って収入を得る。さらにフランチャイズの運営に必要な特定の商品をフランチャイザーから入手するという取決めにより、フランチャイジーはフランチャイザーの永続的「顧客」となるため、フランチャイザーはフランチャイジーに対する商品の販売から収入を確保することもできる。
2.553 小売販売協定では通常、製造業者と販売店はそれぞれ独立した関係にある。標準ライセンス協定およびフランチャイズ協定では、双方の当事者は独立しているものの、それぞれライセンス契約およびフランチャイズ契約の条件にしたがって規定された緊密な業務関係を有する。各当事者の収入は、当事者双方の努力が結びつくことによって生まれる。ライセンシーまたはフランチャイジーの事業が成功すればするほど、当事者双方の収入も増大する。
2.554 しかし、標準ライセンス協定とは対照的に、フランチャイジーが成功するかどうかは、有利なシステムを開発し、当該システムの適切な運営方法をフランチャイジーに教育し、当該システムを改良および奨励し、フランチャイジーを監督または監視し、さらに成功の可能性を高めるためにフランチャイズ契約期間中フランチャイジーを支援するフランチャイザーの能力によるところも大きい。フランチャイズ協定における関係の継続性は、少なくともその一部は、フランチャイザーがフランチャイズ対象システムを継続的に進展させていき、その新しい進展をフランチャイジーに伝えていくことを前提としている。
2.555 小売販売協定では、売り手は買い手がエンドユーザーへ商品を販売する方法を管理しない。ライセンサーの標章の使用許諾をライセンシーに与えるライセンス協定では、標章の所有者が、ライセンスにもとづいて生産または提供される商品またはサービスの質を多少なりとも管理するのが一般的である。これによりライセンサーは、とりわけライセンシーによって生産または提供される商品またはサービスの質的な低下または不適合のためにライセンサーの標章の営業権が損なわれるのを防止することができる。標章に関して、一部の国の法制度では、ライセンサーによる品質管理を義務づける規定をライセンス契約に盛り込むことを要求しており、多くの国の法制度にもとづいてライセンス対象標章の権利を行使し、権利の損失を回避するには、このような品質管理規定が不可欠である。
2.556 とりわけフランチャイズ協定に関しては、フランチャイザーはフランチャイジーによる商標権など特定の権利の使用方法を管理するだけでなく、フランチャイズ対象システムの基本的側面が実施および運営される方法についても指示する。したがって、フランチャイザーのフランチャイジーに対する影響力は、ライセンサーのライセンシーに対する影響力より大きい。
2.557 本節では、事業形態フランチャイズと呼ぶことが可能な、フランチャイズの一般的な一つのカテゴリーだけを取り上げる。もちろんこの広範なカテゴリーには多種多様なものが含まれる。例えば、フランチャイズ対象システムの性質、付与されるライセンスの範囲および内容、継続的関係の性質または目的、フランチャイズ実施方法に対するフランチャイザーの管理の範囲および程度などによっても変わってくるだろう。
2.558 先述したように、フランチャイズという事業形態は、フランチャイザーとフランチャイジーの継続的な事業関係によって特徴づけられるものであり、そこには製品、サービスおよび商標が含まれると同時に、全体的な事業形態そのもの--マーケティング戦略/計画、運営マニュアル/基準、品質管理および継続的な相互交流--までも含まれている。
2.559 フランチャイジングの潜在的可能性をより明確に理解してもらうため、特定の基本的な事業形態フランチャイズについて簡単に説明しよう。フランチャイズを機能にもとづいて分類すると、主要な3種類に分けられる。すなわち、加工フランチャイズ、販売フランチャイズおよびサービス・フランチャイズである。さらにフランチャイズは、フランチャイザーとフランチャイジーの間に存在可能な関係にもとづいて分類することもできる。例えば、製造業者と卸売業者、製造業者と小売業者、卸売業者と小売業者、サービス業者と小売業者の関係が挙げられる。
2.560 「製造」フランチャイズと呼ばれることもある加工フランチャイズの場合、フランチャイザーは必須の材料または専門知識を加工業者または製造業者に提供する。フランチャイザーは、自己の標章を付けた製品の製造および販売をフランチャイジーに許諾する。場合によっては、フランチャイジーに対し、製品のマーケティング、販売およびアフターサービスに関するトレーニングおよび/または情報の提供に加え、フランチャイザーが保有しているトレードシークレット情報または特許技術の使用ライセンスも付与される。こういったフランチャイズは、レストランやファーストフード業界などにおいて一般的である。
2.561 サービス・フランチャイズの場合、フランチャイザーは、フランチャイズ契約の条件にもとづいてフランチャイジーからその顧客へ提供される特定のサービスを開発する。サービス・フランチャイズの例としては、自動車整備もしくは修理サービスの提供、またはクレジットカード・サービスの提供に関するものが挙げられる。
2.562 販売フランチャイズの場合、フランチャイザー(またはその代行者)は製品を製造し、フランチャイジーへ販売する。フランチャイジーはその製品にフランチャイザーの標章を付けて、自己の地理的領域で顧客に販売する。例えば、自動車用燃料、化粧品または消費者電子機器の販売をフランチャイズにもとづいて行うことができる。
2.563 それぞれ異なる実行可能な構造の選択は、フランチャイザーおよびフランチャイジーの特定の状況やフランチャイズの性質によって大きく影響される。以下を含む複数のファクターを考慮に入れるべきである。
2.564 ユニット・フランチャイジングは、フランチャイジングを実施する最も単純な方法であり、フランチャイザーとフランチャイジーの直接的関係を伴うため、フランチャイザーはフランチャイジーと直接フランチャイズ契約を締結する。フランチャイザーとフランチャイジーが同じ国にいる国内的状況において、ユニット・フランチャイジングは最も広く利用されている構造である。
2.565 しかし、フランチャイザーとフランチャイジーが別の国にいる場合には、国家間の言語、文化、商業、法律、政治および経済的違いがあるため、マスターフランチャイザーという形でフランチャイジーの国に現地本部を設置する、または現地子会社もしくは合弁会社をとおしてマルチユニット・フランチャイジングを行う必要がある。
2.566 上記の現地本部を設置する代わりに、フランチャイザーは参入を希望するそれぞれの現地市場のニーズに合わせて自己のフランチャイズを実施するための専門知識を自己の組織内で確立することができる。このような方法により、フランチャイザーはフランチャイズの実施方法を最大限に監督できるようになる反面、外国における管理上の負担とコストが著しく増大するため、外国での事業運営に資源が流出しないというフランチャイジングの大きな利点の一つが損なわれてしまう。
2.567 合意された一定期間にわたり同時または逐次に複数のユニット、店舗または小売店を設置することにより実質的な区域または地理的領域で事業を展開しようとするフランチャイズ契約は、「地域フランチャイズ」と呼ぶことができる。地域フランチャイズには、「フランチャイズ開発者契約」と「マスターフランチャイズ契約」の二つの形式があり、双方を組み合わせることもできる。これら二つの形式について以下に論じていこう。
2.568 フランチャイズ契約のために選択される構造の種類は、基本的にフランチャイジーまたはマスターフランチャイジーが組織された法律上の形態と関係している。とりわけ国際的または国境を越えたフランチャイズ契約の締結に関連して、2つの組織形態、すなわち子会社と合弁会社に言及しなければならない。ただし、フランチャイズ契約では、事業上の要件や適用法、とりわけ税金、労働、外国投資および競争に関する法律に応じて、あらゆる法律上の組織形態または法人形態を用いることができる。
2.569 国際フランチャイジングにおいて、現地マスターフランチャイザーがフランチャイザーの子会社である場合、かかる子会社は必要な現地投入財を確保しながら、フランチャイジーのネットワークを直接管理する。そのためには、フランチャイザーが参入を希望する国において、できれば現地法人として設立された子会社の存在が必要である。かかる子会社はフランチャイザーの代理を務め、単一または複数の現地フランチャイジーにフランチャイズを付与する。
2.570 子会社とは異なり、合弁会社は2つの別個の会社が提携した形態である。提携に合意したこれらの会社は、特定の目的で独立法人を組織するのが一般的である。かかる合弁会社の厳密な形態、すなわちその法人の種類は、その合弁会社に対する当事者双方の希望および国内法に応じて変わる。フランチャイザーはフランチャイズを実施するために、この合弁会社に積極的に関与する。合弁会社を組織することによって、合弁会社の経営に関与するフランチャイザーはフランチャイジーによるフランチャイズ対象システムの使用を管理できるため、知的財産権の所有者にとって保障がもたらされる場合もある。
2.571 合弁会社に特有の現象は、フランチャイザーの合弁事業パートナーとの関係である。基本的に合弁事業パートナーは、現地の顧客や事業について経験を有するパートナーとしてフランチャイザーが選択した現地の個人または企業である。
2.572 フランチャイズ開発者契約は、フランチャイザーと、複数のユニットを開設し運営することを要求されるフランチャイジーとを直接結びつける。このフランチャイズには、通常はフランチャイジーが直接所有する複数のフランチャイズ・ユニットまたは小売店を設立することにより、担当区域を開発するようフランチャイジーに要求する「開発契約」が含まれる。この場合、フランチャイジーが第三者にサブフランチャイズを与えることはない。
2.573 この契約にはたいてい、フランチャイズ・ユニットの設立および担当区域の開発に関する時間枠を設定したスケジュールが含まれる。このタイプの構造にもとづいてフランチャイジーにより開設された個々のユニットは、独立した法的資格をもっておらず、フランチャイジーの企業の部門または支部として扱うことができる。
2.574 マスターフランチャイジング契約において、フランチャイザーは一般に「マスターフランチャイジー」と呼ばれる相手方当事者に、所定の地理的領域に対する権利(独占的権利の場合もある)を付与する。マスターフランチャイジーは、一般に「サブフランチャイジー」と呼ばれる第三者がより広い地理的領域において潜在的商機を十分に開拓できるように第三者へフランチャイズを付与する権利をフランチャイザーから与えられている。サブフランチャイジーによる複数のフランチャイズ・ユニットの運営が承認される場合もあり、このようなサブフランチャイズ契約は「マルチユニット・フランチャイズ」と呼ばれる。
2.575 その地理的領域がフランチャイザーにとって遠隔もしくは未知の地域である場合、または事業戦略上、好適と判断する場合には、フランチャイザーはマスターフランチャイズ契約により、相手方当事者であるマスターフランチャイジーにその地理的領域の開拓を委任することができる。
2.576 このようなフランチャイジングの手法は、とりわけフランチャイザーが事業経験のない国でフランチャイズ運営を希望する国際的フランチャイジングにおいて重要な意味をもつが、そのような状況ではなくても、単に事業戦略として採用されることもある。
2.577 マスターフランチャイジーが設定される国でフランチャイザーがフランチャイズの実施方法を管理する範囲は、マスターフランチャイズ契約の条項によって定められることが多く、かかる条項には、現地のニーズに対応するためにマスターフランチャイジーがフランチャイズ対象システムを変更できる許容範囲が明記される。
2.578 フランチャイズ契約は、上記の構造を組み合わせた構造を取ることもできる。例えば、複数の独立サブフランチャイジーが設定されるマスターフランチャイズとフランチャイズ開発者契約とを組み合わせて、同一のマスターフランチャイジーまたはそのいずれかのサブフランチャイジーに対し同一地域における複数のユニットの開設を追加委任することもできる。また、マスターフランチャイザーに対し、マスターフランチャイズにもとづく任意の数の独立フランチャイジーとの間でフランチャイズ開発契約を締結するよう要求することもできる。
2.579 典型的なフランチャイズ契約の条件は、適用される国内法にしたがうものでなければならず、さらにフランチャイザーおよびフランチャイジー双方の権利と義務を規定するものでなければならない。
2.580 フランチャイザー側の義務には、運営マニュアル、トレーニング、フランチャイズ加盟店舗の開設支援、および継続的支援の提供が含まれる。フランチャイジー側の義務には、料金の支払い、品質管理要件の遵守、合意された範囲の秘密保持および独占性の遵守に加え、おそらくフランチャイズの展開に関する段階的スケジュールの提出が含まれるだろう。他の種類の契約に盛り込まれる一般条件、例えば契約違反、契約の移転および終了に関する条項などもフランチャイザーおよびフランチャイジーの間に適用される。
2.581 当事者間の関係を最適な調和のとれたものにするため、所定のフランチャイズ契約の目的および特定の状況に関して、有能な専門家の意見を仰ぐべきである。
2.582 概して「キャラクター」という用語は、架空の人物(例えば、ターザンまたはジェームズ・ボンド)や人物以外のキャラクター(例えば、ドナルド・ダックまたはバッグス・バニー)と、実在人物(例えば、映画界または音楽界の有名人、スポーツマン)との双方に用いられる。
2.583 キャラクターの商品化に関していえば、キャラクターとは主として、関係する一般大衆により容易に認識される主要な個性的特徴である。このような個性的特徴としては、キャラクターの名前、イメージ、外観もしくは音声、またはそのキャラクターを認識できるシンボルなどが挙げられる。
2.584 架空キャラクターの主要な出所として、以下のものが挙げられる。
2.585 映画作品の場合は、そのキャラクターの出所が文芸作品(例えば、チャールズ・ディケンズが生み出したオリバー・ツイスト)またはシリーズ漫画(例えば、バットマン)である場合も多いことに留意すべきである。
2.586 架空キャラクターの主要用途は、ほとんどの場合、「娯楽目的」ということができる。このようなキャラクターは、小説、物語またはシリーズ漫画に登場し(例えば、「ジャングルの王ターザン」という小説に登場するターザンや、「リスのナトキン」という物語に登場するミスター・ブラウン、またはジェームズ・ボンドやタンタンと名づけられたキャラクター)、そのキャラクターを描いた作品が成功すると、新しいストーリーに結びつくことが多い。こういった主要用途はそのキャラクターの創作者によって決められるが、キャラクターが高い評判を獲得した後に創作者が死亡した場合、相続人がいる場合はその相続人または版権所有者が契約により、新しいストーリー(例えば、イアン・フレミング死後のジェームズ・ボンドを特集する本)においてその主人公の「存続」を図ることができる。一方、創作者のなかには、自分が生み出したキャラクターが自分の死後に新しいストーリーの題材になることを望まない者もいる(例えば、タンタンの創作者であるエルジェ)。映画作品の場合は少し状況が異なる。なぜならキャラクターの創作者(オリジナルの図案または原作の作者)がその主要用途を決めることはめったにないからである。ただし、チャーリー・チャップリンが生み出した「リトルマン(平凡な人)」のキャラクターなど、たしかに例外は存在する。
2.587 また、架空キャラクターの主要用途が、「宣伝、広告および認知目的」といえる場合もある。例えば、キャラクターが特定の会社(例えば、「ミシュラン・マン」や、エクソン(エッソ)のタイガー、プジョーのライオン)、特定の製品(例えば、スコッチ・ウイスキーのジョニー・ウォーカー)または特定のイベント(例えば、オリンピックやサッカーのワールドカップを擬人化するために用いられるマスコット)と密接に結びついた場合が当てはまる。こういったキャラクターは、法人、製品またはサービスおよび活動を普及させる目的で創作される。概してかかる主要用途は、そのキャラクターの創作者、すなわちそのキャラクターを創作する任務を委託された者から生み出されるものではない。
2.588 キャラクターが実在人物である場合、その主な出所は映画界、ショービジネスおよびスポーツ活動である。実在人物の場合は、「主要用途」ではなく「主要活動」というべきであろう。実在人物に付随する問題は、例えば俳優が人物としての評判に加え、映画やテレビシリーズで演じたキャラクターとしての評判も獲得する場合があるという点だ。ときには、自分が演じたキャラクターの名前でのみ実在人物が呼ばれることもある(下記のキャラクター商品化の種類に関する論考を参照されたい)。
2.589 キャラクター商品化とは、架空キャラクターの創作者、または実在人物、または1名もしくは数名の授権された第三者により、さまざまな商品および/またはサービスに関して行われる、キャラクターの主要な個性的特徴(名前、イメージもしくは外観など)の翻案または二次的利用であって、消費者がそのキャラクターへ寄せる親近感により、その商品を取得したい、さらに/またはそのサービスを利用したいと潜在的消費者に思わせることを目的としていると定義づけることができる。
2.590 すでに述べたように、商品化活動を計画する人物または法人(商品担当責任者)が、架空キャラクターの創作者または該当する実在人物であることはめったにない。キャラクターに与えられるさまざまな財産権または人格権は、さまざまな契約(移転もしくはライセンス契約、または製品もしくはサービスの保証契約など)の主題となり、かかる契約によって、利害関係を有する1名もしくは数名の第三者をそのキャラクターの授権された使用者とみなすことができる。
2.591 キャラクター商品化の例として、以下のものが挙げられる。
2.592 組織化されたシステムとしてのキャラクター商品化の歴史は、1930年代における米国のバーバンク(カリフォルニア州)のウォルト・ディスニー・スタジオを起源とし、ここから始まった。この会社が漫画キャラクター(ミッキー、ミニー、ドナルド)を創作した際、従業員の一人であったケイ・カーメンはこれらキャラクターの二次的商業利用を専門とする部門を設立し、周囲の驚きをよそに、低価格の大量販売商品(ポスター、Tシャツ、玩具、ボタン、バッジ、飲料)の製造および販売に対する数多くのライセンス供与に成功した。
2.593 もちろんキャラクターの評判の二次的利用という考え方は20世紀以前にも存在していたが、その理由は商業に直結するものではなかった。例えば、東南アジアではラーマ王子、ビシュヌおよびシタといった叙事詩『ラーマーヤナ』に登場する宗教的キャラクターが、何世紀にもわたり彫像、人形または玩具という形で描写されてきた。もっと最近では(19世紀末)、一部の製造業者が自分たちの製造した商品を普及させるために、架空キャラクターを創作しはじめた。こういったキャラクターは商品やパッケージまたは各種書類に表示されると共に、装飾プレートや衣料、時計、人形などの機能的または装飾的商品に対する二次的利用も行われていた。例えば、フランスにおける(棒付きキャンディの有名な標章)「ピエロ・グルマン(食いしん坊のピエロ)」や、タイヤメーカーの「ミシュラン・マン」といったキャラクターが挙げられる。
2.594 こういった現象は20世紀に入って急速に広がった。1950年代には、政治、映画およびショービジネス分野の有名人が自分の名前やイメージを衣料品に複製すること(いわゆる「抱き合わせ広告」)などを許可するようになった。
2.595 「商品化」の対象となる商品やサービスの範囲は20世紀に著しく拡大し、米国を例に挙げると、ニース協定により定められた「物品およびサービスの国際分類」の42クラス中29クラス以上が商品化に関係している。
2.596 商業およびマーケティングの観点から見れば、キャラクター商品化はおそらく単一のカテゴリーとして処理できるだろう。しかし、法律の観点に立つと、関与する主題によって法的保護の範囲や存続期間が異なるため、商品化の主題ごとに区別することが重要となる。
2.597 商品化が架空キャラクターまたは実在人物(一般に「人物商品化」と呼ばれる)のいずれの使用に関与しているかによって、大きな二つのカテゴリーに分けられる。これら2つのカテゴリーの中間には、一般に「イメージ商品化」と呼ばれる、第三の複合的カテゴリーが存在する。
2.598 これは最も古く最もよく知られている商品化の形式である。この形式は、商品もしくはサービスのマーケティングおよび/または広告における架空キャラクターの主要な個性的特徴(名前やイメージなど)の使用を伴う。
2.599 そもそも組織化された販促システムとしてのキャラクター商品化の手法は、漫画キャラクターおよび魅力的肖像などの人気を利用する手段として編み出された。こういった漫画キャラクターの出所として、以下のものが挙げられる。
2.600 漫画キャラクターに関するキャラクター商品化は、主としてキャラクターの名前、イメージおよび外観の使用を伴う。外観には、平面的複製(図案、ステッカーなど)または立体的複製(人形、キーホルダーなど)が含まれる。
2.601 比較的新しいこの商品化の形式は、商品およびサービスのマーケティングおよび/または広告における実在人物(換言すれば、個人の実体)の主要な象徴(名前、イメージ、音声その他の個性的特徴)の使用を伴う。基本的に、「商品化」される象徴を有する実在人物は、一般大衆にとって周知の存在であり、それゆえにこの形式の商品化は「評判商品化」と呼ばれることもある。実際、商業的観点から見ると、消費者が低価格の大量生産品(マグカップ、スカーフ、バッジ、Tシャツなど)を購入する主な理由は、製品そのものではなく、消費者にとって魅力的な有名人の名前やイメージがその製品に再現されているためであるというのが商品担当責任者の見解である。
2.602 このカテゴリーはさらに2つの形式に分けることができる。一つ目の形式は、実在人物の名前、イメージ(平面もしくは立体)またはシンボルの使用に存在する。この形式は主として、映画界または音楽界の有名人と関係している。しかし、他の活動分野に携わる人物と関係している場合もある(例えば、王室のメンバー)。先述したように、消費者にとって最も重要なのは製品というより、むしろ製品に用いられている名前やイメージであって、これが主要なマーケティングおよび広告媒体となっている。二つ目の形式は、有名なスポーツまたは音楽関係者など、特定の分野におけるスペシャリストが商品またはサービスに関する広告活動に登場する場合に生じる。潜在的消費者にとって魅力的なのは、そこに描写された人物がその商品またはサービスを保証すると共に、その権威者とみなされていることである。例えば、テニス優勝者によるテニスシューズもしくはラケットの広告、クロスカントリー走者によるドリンク活力剤の広告、または人気スターによるハイファイ装置や楽器の広告などが挙げられる。
2.603 これは最も新しい商品化の形式である。この形式は、商品やサービスのマーケティングおよび広告における、実際の俳優によって演じられる架空の映画/TV キャラクターの使用を伴う。この場合、公衆が俳優(実在人物)と俳優が演じる役(描写されるキャラクター)とを区別することが困難なこともある。一方、完全に結びつけられて、実在人物がキャラクターの名前で呼ばれ認識されることもある。このような認識を示す例として次のものが挙げられる。映画界では、ローレルとハーディー、マルクス兄弟、ボリス・カーロフが演じたフランケンシュタイン、およびジョニー・ワイズミューラーが演じたターザン。テレビシリーズでは、ピーター・フォークが演じたコロンボ、またはリチャード・ディーン・アンダーソンが演じたマクガイバー。マクガイバーの場合は、R. D. アンダーソンのイメージをプリントしたTシャツが「マクガイバーTシャツ」と呼ばれる一方、R. D. アンダーソンのイメージを再現した日用品セットはマクガイバーの名前に言及しており、このような製品の購入によって、Tシャツや旅行カバンなど二次的「マクガイバー」製品にも成功の可能性がもたらされた。
2.604 架空キャラクター商品化およびイメージ商品化で著作権との関連性が最も高い分野は、書籍、パンフレットその他の文書、映画作品、図案作品および写真作品である。人物商品化では、著作権との関連性は写真作品の分野において顕著である。
2.605 さらに、翻案の概念もきわめて重要である。ベルヌ条約の第2条(3)項は次のように述べている。「文学的または美術的著作物の翻訳、翻案、編曲等による改作物は、その原作物の著作者の権利を害することなく、原著作物として保護される」。
2.606 伝達手段の多様化は現在、翻案物(派生的作品)の創作に多大な可能性をもたらしている。多くの翻案映画はおそらく原作の小説や短編小説よりも広く認知されていると思われる(例えば、ウォルト・ディズニー・スタジオ制作のピノキオおよびシンデレラのアニメは、それぞれコルローディおよびシャルル・ペローが書いた原作よりも子どもたちにとっては馴染み深いだろう)。有名な芸術的肖像のなかには、公有財産となった後に広く商品化されているものがある。一部の商品またはサービスに関しては、架空キャラクターが(商標保護により)独占権の主題となっているものもあるが、基本的に誰でも利用することができる。例えば、レオナルド・ダ・ヴィンチ作の有名なモナ・リザ(ラ・ジョコンダ)は、過去および現在に至るまでさまざまな商品やパッケージに使用されており(絵はがき、トランプ、人形、アルコール飲料、チョコレートや果物の箱、ミネラルウォーター、日刊紙)、さらに多種多様な変形作品の主題にもなっている(漫画、風刺漫画、空想的写真など)。
2.607 図案または漫画(平面的作品)は、著作権保護の実体的要件を満たせば、単独で保護することが可能である。この点に関し、既存の文芸キャラクター(公有財産となっているかどうかを問わない)の図形的翻案物は著作権保護を受けられる場合があるため(例えば、ウォルト・ディスニー社により漫画形式に翻案されたピノキオやシンデレラといった文芸キャラクター)、オリジナル作品が必ずしも新規であるとはかぎらないことに留意すべきである。同じことが、一般的な動物の図案(例えば、ドナルド・ダックの漫画キャラクター)にも当てはまる。さらに、主としてシリーズ漫画やアニメ漫画の場合には、そのキャラクターによるそれぞれ異なるオリジナルのポーズに著作権保護が与えられることに注意すべきである。
2.608 立体的作品(主に彫像、人形、操り人形またはロボット)は、平面的または視聴覚的な架空キャラクターのオリジナル作品またはオリジナル翻案物である場合もあり、要件を満たせば、それが登場する作品とは無関係に著作権保護を与えられるのが一般的である。
2.609 架空キャラクターを含む視聴覚著作物(映画、ビデオゲーム、写真、映画の一場面またはスチール写真)は通常、要件を満たせば、全体(イメージおよびサウンドトラック)として著作権保護を与えられる。視聴覚的な架空キャラクターは図案(絵コンテもしくはシリーズ漫画)として「生命を吹き込まれる」、または文芸作品において描写されていることが多いため、なおさらこのような著作権保護が妥当であろう。著作権保護は、個人の視覚的象徴、または架空キャラクターの物理的もしくは視覚的外観(衣装、変装または仮面)にも与えることができる。
2.610 人物商品化の場合、著作権保護の関連性は限定される。なぜなら著作権は、該当する実在人物に与えられるのではなく、実在人物の主要な個性的特徴が示されている作品の創作者に与えられるためである。例えば、伝記の場合、著作権はその著者に帰属する。実在人物を表わす彫像、図案または絵画の場合、著作権はその芸術家に帰属する。映画またはテレビシリーズの場合、作品の著作権は作品の制作を可能にした者および俳優が演じる作品を監督し指示した者、すなわち作家および映画製作者に帰属するが、俳優が国民として存在する国の法律が実演家の権利を規定している場合、またはかかる国が1961年10月26日の「実演家、レコード製作者および放送機関の保護に関するローマ条約」の加盟国である場合には、その俳優は実演家として一定の権利を与えられる。
2.611 写真作品に関しては、著作権保護の問題は議論の余地があるだろう。答えは、誰が著作権を所有するかによって決まる。たいていは写真(より正確にはネガ)の作者が著作権を所有する。個人または家庭内の目的のために写真が委託されたのであれば、通常は委託した当事者がその写真のコピー作成または公開を阻止する権利をもっている。最後の問題は、その作品を委託した当事者がその写真の主題となる人物ではない場合に生じる。いずれにせよ、写真作品の商業的利用を規制するうえで著作権以外の保護形式が利用可能である。
2.612 架空キャラクターの主要な個性的特徴は、特定の条件(主に実体的なのもの)にもとづき、標章として登録可能である。実在人物の主要な個性的特徴に関して、この問題はとりわけイメージ(肖像)について議論の余地があると思われる。商品化に関連して、容易に登録可能な芸名および擬人化されたロゴを採用する傾向が見られる(例えば、ポピュラー音楽の領域において、ビートルズおよびローリングストーンズといった芸名はそれぞれ「りんご」および「唇と舌」のロゴを伴っている)。実在人物が自己の名前を保護するもう一つの方法は、自分に与えられているニックネームの登録を取得することである。
2.613 ただし、登録しなければ権利を受けられない国では、登録の取得に時間がかかることが大きな障害となっている。商品化において多くのキャラクターに対する公衆の認識およびその人気は一定の期間にかぎられているため、権利取得に要する時間はできるかぎり短くすべきである。ただし、ウォルト・ディズニーの漫画キャラクターや、ベアトリクス・ポッターの童話キャラクターといった例外も存在する。
2.614 出願の主題である標章が満たさなければならない方式要件には、商品化に重大な影響をおよぼすものもある。わずかな国に存在するこういった要件の一つは、標章が用いられる商品またはサービスと、当該標章の所有者の事業との間に存在しなければならないという関係に関する要件である。商品化を行う会社やキャラクターの創作者が自ら二次的製品の製造やマーケティングに携わることはめったになく、それゆえ彼ら自身は商品またはサービスの取引を行わないために、彼らにとって架空キャラクターの商標権を取得することが難しくなってしまう。さらに、ライセンサーがライセンシーの事業の共同所有者とならないかぎり、ライセンシーによって行われる活動はライセンサーにより生み出された事業とはみなされないのである。
2.615 しかし、出願人の実際の活動とは無関係に、無制限の数の商品またはサービスに標章を用いることを認める傾向が広がっており、現在の趨勢は好ましい方向へ向かっている。ただし、登録標章の不使用に関する条項は存在するだろう。
2.616 「美的機能性」原則(主に玩具もしくは人形の領域において)または商品の「主として機能的な」外観に照らし、(平面的な図形表示の形で出願される)商品の立体的形状は基本的に多くの国において商標としての登録を受けられない。ただし、その商標が商品に関連する二次的意味を獲得している場合は除かれる。
2.617 実体的な追加要件も存在する。こういった主な要件の一つが、標章は識別力を有していなければならない、言い換えれば、対象の商品またはサービスに関して総称的または記述的であってはならないということである。さらに、標章は公衆に誤認を生じたり、公序良俗に反するものであってはならない。
2.618 ただし、一部の国では、識別力だけでは不十分であり、二次的意味を獲得している場合にかぎり、架空キャラクターの個性的特徴が標章として登録可能となる。また、国によっては、二次的意味の獲得によって、架空キャラクターの主要な特徴における内在的識別力の欠如が解消される場合もある。
2.619 より寛容に登録を認める国も数多くあり、こういった国では架空キャラクターのほとんどの名前および外観は独創的であり、それゆえ十分な識別力があるとみなされる。
2.620 実在人物の主要な特徴に関しては、該当する実在人物、またはその名義で行動する権限を与えられた人物もしくは事業体が、その実在人物の名前または外観を標章として登録できる国もある。ただし、(商号ともなりうる)名字が標章として登録される場合、同じ名字の他の人たちが特定の条件下でその名字を引き続き使えるようにするため、かかる標章所有者の独占的権利が制限される可能性がある。ただし、かかる登録標章が周知の人物および/または商号に関係しており、他の者がかかる登録標章に寄生してその評判を利用しようとする場合は除かれる。
2.621 保護を取得するうえで使用の証拠が要求される国では、ライセンシーまたは商品担当責任者など授権された使用者によって行われた使用は、標章所有者による使用とみなされる。この規定は、商品化プログラムに関与している標章所有者にとって最も重要な規定である。
2.622 工業意匠保護は主として、一般に漫画を出所とするが実在人物を描写することもある主に玩具または模造装身具の領域(人形、ロボット、操り人形、アクションヒーローの人形、ブローチ、「飾りピン」)に属する立体的物品に対し、美的意匠の形で描写される漫画キャラクターに関連している。意匠保護の関連性は、著作権保護が排除または制限された場合、とりわけキャラクターが産業上の利用を意図して創作された場合にきわめて重要な意味をもつ。さらに、意匠保護は登録を前提とする場合が多いため、有効な保護は意匠登録日以降でなければ受けられないとしても、意匠出願は、その出願日からの所有権を示す一応の証拠を確立するうえで有用である。
2.623 多くの国は、一般法(憲法、民法典など)にもとづき、または特定の法律にもとづき、実在人物の主要な個性的特徴(名前、ペンネームやニックネーム、イメージ、シンボルなど)が無断で商業もしくは広告に利用されないように実在人物そのものを保護する、または演じられたキャラクターの主要な特徴が無断で商業もしくは広告に利用されないようにキャラクターを演じる実在の認識可能な人物を保護する条項を定めている。こういった条項にもとづく権利は多くの場合、広義の知的財産(標章、工業意匠、著作権、不正競争を含む)の範囲内で利用可能な保護を補足するものである。かかる保護は、名誉毀損または文書誹毀、プライバシー権および人格権またはパブリシティ権の概念をとおして獲得することができる。